親の骨折、退院後に歩けないは珍しくない|自宅復帰の全手順

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親が骨折して入院した——。頭が真っ白になったまま、この記事にたどり着いた方も多いと思います。

最初にお伝えしたいのは、高齢者の骨折で本当に大事なのは「骨がくっつくか」ではなく「元の生活に戻れるか」だということです。骨は多くの場合くっつきます。でも、入院をきっかけに歩けなくなり、そのまま介護が始まるご家族を、私は現場で何度も見てきました。

この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の高齢者を担当してきた立場から、骨折直後の対応から入院の流れ、退院後に本当に起きること、自宅復帰の準備までを時系列でお伝えします。一般的な「入院〜リハビリの流れ」は競合記事にも書いてあります。この記事はその先、「で、退院したあとどうなるの?」にきちんと踏み込みます。

この記事でわかること

  • 骨折直後の3日間で家族がやるべきこと
  • 入院の流れ(急性期→回復期リハビリ病棟)と「90日の壁」
  • 退院時に「元通り歩ける」とは限らない、という現実
  • 退院後の3パターンと、自宅に戻すための準備
  • 入院費の上限(高額療養費)と再骨折を防ぐ工夫
目次

まず結論|骨折は「治る」より「生活に戻れるか」で見る

高齢者の骨折で家族が最初にやるべきことは、シンプルです。

やることは、この3つだけ

  1. 医師の説明を、メモを取りながら聞く(手術するのか、いつ動けるのか)
  2. 入院してすぐ「要介護認定」を申請する(退院後の準備を早く始めるため)
  3. 病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)を味方につける(転院・退院の相談窓口)

若い人の骨折なら「くっつけば元通り」ですが、高齢者は違います。数週間ベッドで安静にしているだけで、足腰の筋力はごっそり落ちます。骨折そのものより、入院中に体が動かなくなることのほうが怖い——ここを理解しているかどうかで、家族の動き方が変わります。

リハウルフ
「骨折は治りましたよ」と言われても、安心しきらないでください。私が現場で見てきた分かれ道は、いつも退院“後”にあります。

高齢者の骨折で最も多いのは「大腿骨」|寝たきりの入口

高齢者が転倒して骨折する部位で、いちばん多く、いちばん影響が大きいのが大腿骨(だいたいこつ)の付け根——太ももの骨が股関節につながる部分です。「大腿骨頸部骨折(けいぶこっせつ)」「大腿骨転子部骨折」などと呼ばれます。

ここを折ると、痛くて立てません。歩けないので、放っておけばそのまま寝たきりに直結します。だからこそ、多くの場合できるだけ早く手術をして、翌日からでも起き上がる練習を始めるのが基本方針になります。「高齢だから手術は怖い」と迷う家族も多いのですが、手術をせずに寝かせ続けるほうが、寝たきり・肺炎・認知機能の低下といったリスクは高くなると言われています。

よくある勘違い

「骨折くらいで大げさな」と思われがちですが、大腿骨骨折は高齢者が要介護・寝たきりになる主要なきっかけのひとつです。手術する・しないは、命と生活に直結する判断。医師の説明はメモを取り、分からない言葉はその場で聞き返してください。

骨折直後〜入院|家族が最初の3日でやること

バタバタする時期ですが、この3日でやっておくと後がラクになります。

Day1|医師の説明を「正確に」理解する

手術の有無、手術日、術後どのくらいで動けるか、入院期間の見込み。専門用語が出たらその場で聞き返す。家族が複数いるなら、説明はできるだけ2人以上で聞く。あとで「言った・聞いてない」を防げます。

Day2|医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談する

病院にいる、退院・転院・お金の相談窓口です。「回復期リハビリ病棟に移る流れになりますか?」「費用の相談に乗ってほしい」と早めに声をかける。ここを早く動かせるかで、退院後の準備の余裕が変わります。

Day3|要介護認定を申請する

市区町村の窓口か、地域包括支援センターへ。認定が下りるまで1か月ほどかかるので、退院に間に合わせるには入院直後の申請が正解です。「まだ退院の話も出てないのに早すぎ?」と思うくらいでちょうどいい。

ポイント

要介護認定の申請は「間に合わせる」ためのもの。退院してから申請すると、認定が出るまでの1か月、介護サービスも住宅改修の補助も使えず、家族が丸腰で介護することになります。

入院の流れ|「急性期」から「回復期リハビリ病棟」へ

高齢者の骨折入院は、多くの場合ふたつの病院(病棟)をまたぎます。ここを知らないと「え、もう転院?」と慌てるので、先に流れを押さえておきましょう。

①急性期病院
手術と初期治療。入院は2週間前後と短い。ここで「治療」をする。
▼ リハビリを続けるため転院
②回復期リハビリテーション病棟
1日最大3時間の集中リハビリ。歩く・立つ・生活動作を取り戻す場所。ここが勝負。
▼ 退院
③自宅 or 施設へ
どこまで回復したかで行き先が変わる。

急性期病院は「治療」が仕事なので、手術が終わると比較的早く退院・転院になります。「もう追い出されるの?」と感じるかもしれませんが、これはリハビリに専念できる病棟へ移る、前向きな転院です。

その移り先が回復期リハビリテーション病棟。大腿骨などの骨折の場合、この病棟でリハビリを受けられる期間には上限があります。

90日 大腿骨等の骨折で回復期リハ病棟に入院できる目安の上限
最大3時間/日 回復期病棟で受けられるリハビリの量

制度上、大腿骨・骨盤・股関節などの骨折では、回復期リハビリ病棟の入院日数の上限がおおむね90日と定められています(状態により算定の扱いは異なります)。つまり「回復するまで無期限にいられる」わけではない。ここが、次の本題につながります。

【ここが本題】退院時に「元通り歩ける」とは限らない

競合記事の多くは「早くリハビリを始めれば回復します」で終わっています。でも現場を知る者として、正直にお伝えします。骨折前と同じようには歩けないまま退院する高齢者は、珍しくありません。

リハウルフ
ここは家族がいちばんショックを受けるところ。でも先に知っておくと、退院の日に慌てず、次の一手を打てます。

「90日の壁」がある

前述のとおり、回復期リハビリ病棟には入院日数の上限があります。まだ杖歩行が不安定でも、期間が来れば退院・転院の話が出ます。「完全に治ってから帰る」ではなく、「決められた期間で、行けるところまで行って帰る」——これが実際の仕組みです。

「これ以上は大きくは変わりません」と言われる日が来る

リハビリは、ある時点から回復のカーブが緩やかになります。担当のセラピストから「ここからは維持が中心になります」と説明される日が来ることがあります。これは見捨てているのではなく、医学的な回復の山を越えたというサイン。ここで家族が「じゃあ、この状態で家に帰す準備をしよう」と切り替えられるかどうかが大事です。

足腰以外も落ちる|せん妄・認知機能の低下

入院で見落とされがちなのが、これです。慣れない病院、点滴、動きを制限されがちな環境で、高齢者はせん妄(一時的に混乱し、夜に騒ぐ・つじつまが合わなくなる状態)を起こしたり、認知機能がガクッと落ちたりすることがあります。「骨は治ったのに、なんだかボーッとするようになった」——これも骨折入院で家族が直面する現実のひとつです。

だから家族は「面会」で刺激を送る

面会に行き、話しかけ、カレンダーや家の写真を置く。こうした関わりが、せん妄や認知機能の低下を和らげることがあると言われています。「行っても寝てるだけだから」と足が遠のくと、かえって回復の機会を逃しかねません。

退院後の3パターン|自宅・施設・その中間

退院時にどこまで回復したかで、行き先は大きく3つに分かれます。

パターン状態の目安行き先
①自宅復帰杖や手すりで歩ける。トイレに自分で行ける自宅+通所/訪問リハビリ、福祉用具、住宅改修
②いったん施設まだ歩行が不安定。もう少しリハビリが必要老健(介護老人保健施設)などで在宅復帰を目指す
③長期の介護へ自力歩行が難しい。介助が全面的に必要特養・介護付き有料老人ホーム等を検討

大事なのは、①でなくても失敗ではないということ。無理に自宅に戻して、家族が疲弊し、結局再入院——というほうがつらい結末です。親の状態と家族の体制を冷静に見て選ぶ。その判断を、退院前のカンファレンス(病院・家族・ケアマネの話し合い)で一緒に決めていきます。

「まだ歩けないのに家に帰されそう。でも施設は敷居が高い」と迷ったときは、まず選択肢の全体像と費用感を知っておくと、話し合いで慌てません。老人ホームや施設の情報を無料でまとめて相談できるサービスもあります。

自宅に戻すなら、退院“前”に家を変えておく

自宅復帰(パターン①)を選ぶなら、鉄則がひとつあります。家を変えるのは「退院してから」では遅い。退院の日に段差だらけ・手すりなしの家に帰ると、その日のうちに転んで再骨折——という悪循環が本当に起きます。

  • 手すりの設置(玄関・廊下・トイレ・浴室・階段)
  • 段差の解消(スロープ、敷居の撤去)
  • ベッドの導入(布団からの立ち上がりは危険。介護ベッドはレンタル可)
  • ポータブルトイレ(夜間のトイレ移動の転倒を防ぐ)
  • 滑り止め・照明(浴室マット、廊下の足元灯)

これらの多くは、介護保険の住宅改修(上限20万円・所得により1〜3割負担)福祉用具レンタルで費用を抑えられます。ただし工事の“前”に申請が必要——先に工事してしまうと補助が出ません。ここは要介護認定を早く申請しておく理由でもあります。段取りはケアマネや福祉用具の専門相談員が組んでくれます。

リハウルフ
「退院してから考えよう」は禁物です。入院中のうちに、ケアマネと一緒に家を整える。これができた家族は、退院後がまるで違います。

退院直後は、家族だけで介護を回そうとすると一気に消耗します。歩行が不安定な時期の見守りや、入浴・通院の付き添いなど、介護保険だけではカバーしきれない部分を保険外のサービスで補うと、家族が倒れずに済みます。退院後しばらくの「いちばん大変な時期」を乗り切る手として知っておくと安心です。

骨折後の費用|入院費には「上限」がある

お金の不安は当然ですが、まず知ってほしいのは入院費は青天井ではないということ。医療費が高額になっても、高額療養費制度で1か月の自己負担には上限があります。

高額療養費制度(70歳以上・一般所得の目安)

入院を含む1か月の自己負担上限は、おおむね月57,600円(外来+入院・世帯単位)。過去12か月に3回以上上限に達した場合、4回目以降は44,400円に下がります(多数回該当)。

※所得区分により金額は異なります。手続きはMSWや加入している健康保険の窓口へ。「限度額適用認定証」を先に用意すると、窓口での支払いを上限までに抑えられます。

ただし注意点があります。高額療養費の対象は医療費だけ。入院中の食事代、差額ベッド代、おむつ代などは対象外で、別途かかります。そして退院後、介護サービスを使い始めれば介護保険の自己負担も発生します。「治療費は上限があるが、生活・介護のお金はここから続く」——この全体像で見ておきましょう。

再骨折を防ぐ|現場で効く工夫

一度骨折した高齢者は、反対側もまた折る、というのが本当に多い。退院がゴールではなく、再骨折を防ぐことが、そのまま寝たきり予防になります。

  • 夜間のトイレ動線を最優先で見直す(転倒の多くは夜のトイレ。足元灯とポータブルトイレが効く)
  • 足に合った靴・室内履きにする(スリッパは脱げて危険。かかとが固定される介護シューズを)
  • 薬を見直してもらう(ふらつきの原因が薬のこともある。医師・薬剤師に相談)
  • 骨粗しょう症の検査・治療(骨がもろいと繰り返す。整形外科で相談を)
  • リハビリを続ける(退院後も通所・訪問リハビリで足腰を維持する)

「もう歳だから」とリハビリをやめると、あっという間に動けなくなります。派手な運動は要りません。立つ・座る・少し歩くを日課として続けることが、いちばんの再骨折予防です。

家族が抱え込まないために

最後に、いちばん伝えたいことです。骨折をきっかけに介護が始まると、家族は「自分がなんとかしなきゃ」と一人で背負い込みがちです。でも、介護は長期戦です。最初に全力を出しきると、続きません。

リハウルフ
「親のことは自分が」と抱え込む方ほど、半年後に倒れます。使える制度と人に、遠慮なく頼ってください。それが結局、親のためになります。

ケアマネ、地域包括支援センター、MSW、介護保険サービス、保険外サービス——頼れる先はたくさんあります。骨折という予期せぬ出来事に、完璧な対応なんて誰にもできません。「早く相談する」だけで十分に上出来です。

まとめ|時系列で動けば、選べる道は広がる

この記事の要点

  • 骨折は「治る」より「生活に戻れるか」で見る。怖いのは骨より入院中の体力低下
  • 入院直後に要介護認定を申請。急性期→回復期リハ病棟(大腿骨等は90日が目安)
  • 元通り歩けないまま退院することは珍しくない。せん妄・認知機能低下にも注意
  • 退院後は自宅・施設・長期介護の3パターン。自宅なら退院“前”に家を整える
  • 入院費は高額療養費で上限あり。再骨折予防=寝たきり予防。家族は抱え込まない

親の骨折は、家族にとって突然の大事件です。でも、やるべきことを時系列で押さえておけば、慌てずに、選べる道を広げられます。まずは「入院してすぐ要介護認定」——ここから始めてください。

あわせて読みたい

参考にした情報(公的機関)

  • 厚生労働省|回復期リハビリテーション病棟入院料(算定日数の上限について)
  • 厚生労働省|高額療養費制度を利用される皆さまへ

※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。金額・日数の上限は所得区分や制度改定により変わることがあります。最新の内容は各窓口でご確認ください。

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この記事を書いた人

リハウルフのアバター リハウルフ 理学療法士/ケアマネ

理学療法士(2010年取得・16年目)。通所リハビリ、訪問看護ステーション、訪問リハビリ、介護医療院、回復期リハビリ病棟で勤務。うち12年が在宅の現場で、訪問したお宅は1,000件を超えます。『リハコネ式!訪問リハのためのルールブック』監著・編集。2026年に介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を取得しました。

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