「脳梗塞です」と告げられて、頭が真っ白になっていませんか。
麻痺が残るのか、歩けるのか、家に帰れるのか。何も分からないまま、時間だけが過ぎていく。
結論から言います。この病気は、家族が「いつ」「何を」するかで結果が変わります。そして、その分かれ道のほとんどは入院中にやってきます。
リハウルフ- 回復期リハビリ病棟には「日数の上限」がある 脳血管疾患は最長150日(重症例で180日)。ここを知らずに過ごすと、後で必ず後悔します。
- その病棟に移れるかは、入院から2ヶ月以内に決まる 家族が動かないと、選択肢が消えます。
- 回復の見通しは、発症2週間でだいたい見えている 絶望する必要も、過度に期待する必要もありません。現実を知ると、動けるようになります。
すでに退院が近い方、退院後の方は、「退院後の3ヶ月」の見出しから読んでください。
まず、担当医に聞くべき3つの質問
「先生、どうなんでしょうか」と聞いても、返ってくるのは「様子を見ましょう」です。医師が悪いのではありません。質問が漠然としていると、答えも漠然とします。
次の3つを、メモを持って聞いてください。答えによって、家族がやるべきことが変わります。
| ① 病型は何ですか | ラクナ梗塞/アテローム血栓性/心原性脳塞栓症のどれか。 ここで再発リスクも、飲む薬も、回復の見通しも変わります。 心原性は一般に梗塞が大きくなりやすく、再発率も高い傾向があります。 |
|---|---|
| ② 回復期リハビリ病棟の対象になりますか | この記事で最も重要な質問です。 対象なら、次に「どこの病院に、いつ移れますか」まで聞く。 対象外と言われたら、その理由を必ず聞いてください。 |
| ③ 嚥下(えんげ)はどうですか | 飲み込みの状態。ここが悪いと誤嚥性肺炎で回復が止まります。 「口から食べられそうか」は、自宅復帰を左右する分かれ道です。 |



脳梗塞リハビリの「時間割」を理解する
脳梗塞のリハビリには、制度で決められた時間割があります。これを知らないと、家族はただ流されます。
| フェーズ | だいたいの期間 | この時期の主役 |
|---|---|---|
| 急性期 | 発症〜2週間前後 | 命を守る治療。 並行して早期離床(できるだけ早く起こす)。 |
| 回復期 | 2週間〜6ヶ月ごろ | 回復期リハビリ病棟での集中リハビリ。ここが最大の勝負どころ。 |
| 維持期(生活期) | おおむね6ヶ月〜 | 訪問・通所リハビリ。 生活そのものがリハビリになる。 |
期間はあくまで目安です。重症度で前後します。ただ、「回復期に集中的にやる」という設計思想は共通です。
回復期リハビリ病棟|150日という時間制限
回復期リハビリテーション病棟は、1日最大3時間のリハビリを、毎日受けられる病棟です。急性期病院のリハビリ(1日20〜40分程度のことも多い)とは、密度がまったく違います。
ただし、入院できる日数に上限があります。
- 原則:150日
- 高次脳機能障害を伴う重症の脳血管障害:180日
- 入り口の条件:発症または手術から2ヶ月以内に、この病棟でのリハビリを開始していること
つまり、急性期病院でぼんやり2ヶ月過ごすと、この選択肢そのものが消えます。
家族がやることは、シンプルです。入院して1週間以内に、MSW(医療ソーシャルワーカー)に会いに行く。そして「回復期リハビリ病棟に移りたい」と口に出す。
MSWは病院の相談窓口にいます。「誰に相談すればいいか分からない」なら、看護師に「ソーシャルワーカーさんと話したいです」と言えば繋がります。



「もう年だから」は、なぜ危険なのか
80代でも歩行が回復する方はいます。一方で、60代でも回復が限られる方もいます。年齢は、決定的な要因ではありません。
ただ、ここは正直に書きます。「諦めなければ必ず治る」わけでもありません。脳梗塞の回復は、損傷した場所と大きさに大きく左右されます。気持ちで乗り越えられる部分と、そうでない部分があります。
では、なぜ「年だから」が危険なのか。それが、リハビリをやらない理由になってしまうからです。家族が諦めると、リハビリの量が減ります。量が減れば、回復するはずだった分まで回復しません。ここは、確実に家族がコントロールできる部分です。
目指すべきは「元通り」ではなく、「残った機能で、どう暮らすか」です。麻痺が残っても、家に帰れる人はたくさんいます。
入院中にやる4つのこと(時系列)
| 〜1週間 | MSWに会う。「回復期リハビリ病棟を希望します」と伝える。 担当医に、前述の3つの質問をする。 |
|---|---|
| 〜2週間 | 要介護認定を申請する。入院中でも申請できます。 市区町村の窓口か、地域包括支援センターへ。結果が出るまで1ヶ月前後かかるので、早いほど良い。 |
| 退院1ヶ月前 | ケアマネジャーを決める。MSWに紹介してもらうのが早い。 この時点で、住宅改修や福祉用具の話を始める。 |
| 退院時 | 退院時カンファレンスに必ず出る。仕事を休んででも。 医師・看護師・リハビリ職・ケアマネが揃う、唯一の機会です。 |
要介護認定は、申請から結果まで1ヶ月以上かかります。「退院してから」では、確実に間に合いません。
退院時カンファレンスで、これだけは聞く
専門職が並ぶ場で、家族は緊張して何も聞けずに終わりがちです。紙に書いて持っていってください。
- トイレは、どこまで一人でできますか(自宅復帰の最大の分かれ目)
- お風呂は? 見守りだけでいいのか、介助が要るのか
- 転ぶリスクはどのくらいですか/どんな場面が危ないですか
- 食事の形態は? きざみ・とろみは必要か
- やってはいけないことはありますか(血圧・運動の制限など)
- 次に悪くなるとしたら、どんなサインですか



退院後の3ヶ月|家族が倒れない設計をする
在宅介護でいちばん多い失敗は、家族が頑張りすぎて、3ヶ月で燃え尽きることです。本人の機能より、まず介護者の休みを設計してください。
| 時期 | やること | 見るポイント |
|---|---|---|
| 1ヶ月目 | サービスを開始し、生活のリズムを作る | 転倒がないか。 介護者が眠れているか。 |
| 2ヶ月目 | ケアマネに遠慮なく不満を言う | 回数・時間帯が生活に合っているか。 合わなければ変えられます。 |
| 3ヶ月目 | ショートステイを試す ケアプランを見直す | 介護者の休息日が、月に何日ありますか。 ゼロなら設計ミスです。 |
使えるサービスの組み合わせは、だいたいこうなります。
| 訪問リハビリ | 週1〜2回。PT・OT・STが自宅に来る。生活の場でのリハビリは、病院と別物の効き方をします。 |
|---|---|
| 通所リハビリ(デイケア) | 週2〜3回。リハビリ+入浴+家族の自由時間。 |
| 訪問看護 | 服薬管理・血圧管理。再発予防の実務は、ここが担います。 |
| 福祉用具レンタル | ベッド・手すり・歩行器。介護保険で1〜3割負担で借りられます。 |
| ショートステイ | 家族が休むための制度です。使うことに罪悪感を持たないでください。 |
それでも、介護保険だけでは埋まらない時間が出ます。「通院に付き添えない」「夜だけ誰かにいてほしい」「リハビリの回数を増やしたい」——このあたりは、介護保険の枠外です。保険外サービスは自費ですが、家族が仕事を辞めるより、はるかに安く済むことがあります。
見落とされやすい2つの後遺症
血管性認知症
脳梗塞のあとは、血管性認知症のリスクが上がります。特徴は、アルツハイマー型と違って「まだら」に出ること。しっかりしている時と、そうでない時の差が大きい。
家族が「サボっている」「わざとやっている」と誤解しやすいのが、この病気の残酷なところです。同じ話の繰り返し、意欲の低下、感情のコントロールが効かない(急に泣く・怒る)が出たら、医師に相談してください。
高次脳機能障害
体は動くのに、生活が回らない。これが高次脳機能障害です。左側にあるものにぶつかる(半側空間無視)、段取りが組めない、すぐ疲れる、怒りっぽくなった。
見た目に分からないので、いちばん理解されません。「性格が変わった」と感じたら、性格ではなく症状の可能性があります。リハビリ職に相談してください。
再発予防|ここが本当の勝負
脳梗塞の再発率は、1年で約10%、10年で約半数と報告されています(久山町研究などの疫学データ)。病型によって差が大きく、心原性脳塞栓症は特に高いとされます。
2回目は、1回目より重くなることが多い。今やっているリハビリを守るためにも、再発予防が最優先です。
| 最重要 | 薬を絶対に切らさない。抗血栓薬の自己判断での中断は、再発に直結します。 「調子がいいから」でやめる方が本当にいます。訪問看護に管理してもらうのが確実です。 |
|---|---|
| 次に重要 | 血圧・血糖・LDLコレステロールの管理。数値を家で記録する。 |
| 生活 | 禁煙(最優先)/節酒/減塩 歩ける方はウォーキング。歩けない方も、座位・立位の時間を作る。 |
| 受診 | 定期受診を飛ばさない。付き添えないなら、介護タクシーや保険外サービスを使ってでも続ける。 |
お金の話|実際いくらかかるのか
公的な調査データで見ると、こうなります。
| 項目 | 平均 |
|---|---|
| 住宅改修・福祉用具などの一時費用 | 47.2万円 |
| 在宅介護の月額 | 5.3万円 |
| 施設介護の月額 | 13.8万円 |
| 介護期間 | 55.0ヶ月(4年7ヶ月) |
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
※これは介護全般の平均です。脳梗塞に限った数字ではなく、施設は種類によって大きく上下します(有料老人ホームはこれより高くなることが多い)。
注目してほしいのは「4年7ヶ月」のほうです。月額が想定内でも、期間が読めていないと破綻します。短距離走の予算で、マラソンを走らないでください。
負担が重いときは、高額介護サービス費で月の自己負担に上限がかかります(一般的な所得区分で世帯44,400円など、所得により変動)。申請しないと戻りません。申請しないと戻りません。
家族が壊れないために
脳梗塞は、ある日突然来ます。心の準備がないまま、介護者になる。これは、事故に遭ったのと同じです。家族が動揺するのは、当たり前です。
それでも家族は「しっかりしなきゃ」と思ってしまう。そして、誰にも弱音を吐けないまま、静かに追い詰められていきます。
地域包括支援センターの介護者カフェ、家族会を使ってください。同じ立場の人と話すだけで、抱えているものの重さは変わります。



まとめ
- 入院1週間以内にMSWへ「回復期リハビリ病棟を希望します」 発症から2ヶ月を過ぎると、この選択肢は消えます。
- 担当医に「病型」「回復期の対象か」「嚥下」を聞く 漠然と聞けば、漠然としか返ってきません。
- 要介護認定は入院中に申請する 結果まで1ヶ月前後かかります。
- 退院時カンファレンスで「トイレ」を聞く 自宅復帰できるかは、ほぼここで決まります。
- 薬を切らさない。再発は1年で約10% 2回目は重くなります。
- 介護者の休息日を、最初から予定に入れる 平均4年7ヶ月。マラソンです。
今日、全部やる必要はありません。まず、MSWに会う。それだけで十分です。
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「退院=歩ける」ではない、という点は脳梗塞と共通します。
参考にした情報(公的機関)
個別の医療判断は必ず主治医に、介護サービスの利用はケアマネジャー・地域包括支援センターにご相談ください。
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。









