親の介護で実家どうする|売却・賃貸・空き家「2つの締切」

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親が施設に入った。誰も住まなくなった実家が、そのままになっている。

売るのか、貸すのか、置いておくのか。きょうだいで話しても結論が出ず、「まあ、そのうち」で1年が過ぎる。

この記事で最初に伝えたいのは、選択肢の比較ではありません。実家の問題は「選ぶ」問題ではなく、「締め切りに間に合うか」の問題だということです。

リハウルフ
理学療法士のリハウルフです。訪問リハビリ12年、「実家をどうするか」で消耗しているご家族を、たくさん見てきました。税や不動産の専門家ではありませんが、家族が何を見落として損をするかは、嫌というほど見ています。
実家には、2つの締め切りがあります
  1. 親の判断能力 実家は親の家です。親が認知症になると、家族でも売れなくなります。期限は誰にも分かりません。
  2. 税金の「3年ルール」 親が住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、3,000万円の特別控除が使えます。過ぎると、消えます。

「空き家のまま置いておく」は、選択肢ではなく、この2つの締め切りを消費し続ける行為です。

先に断っておきます。税と不動産の最終判断は、必ず税理士・司法書士にしてください。この記事は「何を知らずに損をするか」を示すためのものです。

目次

締め切り①|親名義の家は、親にしか売れない

まず、ここが出発点です。実家の名義は、ほぼ親のはずです。名義人本人にしか、売る意思決定はできません。子どもが「親のためだから」と勝手に売ることはできない。

親に判断能力がある間は、簡単です。親が売ると決めれば売れる。委任状で子どもが手続きを代行することもできます。

問題は、認知症が進んだ後です。

意思能力がないと契約は無効本人が売買の意味を理解できない状態では、売買契約そのものが成立しません。司法書士が本人確認で止めます。
成年後見人が必要になる家庭裁判所に申立て。子どもが選ばれるとは限りません(専門職後見人になると、月2〜6万円程度の報酬が本人の財産から続きます)。
居住用不動産は家裁の許可が要る後見人がついても、自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要です。「施設費用のため」など、本人の利益になる理由が要る。
「相続対策で売りたい」は通りません。
後見はやめられない一度始めると、原則として本人が亡くなるまで続きます。売却のためだけに使う、という制度ではありません。
リハウルフ
「施設のお金が足りないから実家を売ろう」となった時には、もう親の判断能力がない——この順番が、本当に多いんです。お金が必要になってからでは遅い。

だから、親がまだ話せるうちに聞いておいてください。「この家、どうしたい?」と。売る・貸す・残す、どれを選ぶにしても、本人の意思が確認できている状態と、そうでない状態では、後の難易度が桁違いです。

「まだ元気だから」と先延ばしにした結果、聞けなくなった——このパターンが、いちばん多い。元気なうちにしか、聞けません。

そして、意思を確認できたなら、それを形にしておく方法があります。家族信託を使えば、親が元気なうちに「実家の管理・売却を子に任せる」と決めておける。認知症になった後でも、家庭裁判所を通さずに売却できるようにしておく仕組みです。合うかどうかは家庭ごとに違うので、まず相談だけしてみてください。

締め切り②|3年を過ぎると、3,000万円が消える

ここが、旧来の「実家をどうする」議論でいちばん抜け落ちるところです。先送りには、金額のはっきりした値札がついています。

親が生きているうちに売る場合

居住用財産の3,000万円特別控除(国税庁 No.3302)

親が自宅を売って利益(譲渡所得)が出ても、3,000万円までは税金がかかりません。

ただし期限があります。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

例:2026年5月に施設入居 → 3年後は2029年5月 → 2029年12月31日が期限。

「そのうち考えよう」で3年は、あっという間です。そして期限を過ぎた瞬間、この控除は戻ってきません。売却益が出る家なら、数百万円単位の差になります。

親が亡くなった後に売る場合は、別の制度

「相続してから売れば同じでしょ」——違います。まったく別の制度で、要件がずっと厳しい。

被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除(国税庁 No.3306)
建築時期昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
それより新しい実家は、そもそも対象外です
売却代金1億円以下
用途の制限相続時から売却時まで、事業・賃貸・居住に使っていないこと
期限相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
かつ、制度自体が令和9年12月31日まで
相続人が3人以上令和6年1月1日以後の譲渡は2,000万円に減額
老人ホーム入所の場合要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合も、一定の要件を満たせば対象になりえます
⚠️ ここが最大の落とし穴です

実家を賃貸に出すと、この3,000万円控除は使えなくなります。

「空いてるなら貸せば?」という何気ない判断が、数百万円の控除を消すことがあります。家賃収入と、失う控除。どちらが大きいかを計算せずに貸してはいけません。

ここは要件が細かく、耐震改修や除却の扱いなど例外も多い領域です。金額が大きいので、必ず税理士に確認してください。数十万円の相談料をケチって、数百万円を失う領域です。

リハウルフ
税理士さんに言われて青ざめたご家族がいました。「貸す前に相談してくれれば」と。無料相談でいいので、動く前に一度聞いてください。

3つの選択肢を、正確に比べる

選択肢向いている場合言われない代償
売る施設費用が要る
相続人が複数
誰も戻らない
戻れない。
親が「まだ家がある」と思っている場合、伝え方を間違えると本人が崩れます。
貸す立地に賃貸需要がある
将来戻る可能性がある
手元資金に余裕がある
相続空き家の3,000万円控除が消える。
家賃は親の所得になり、介護保険の負担割合が上がることがある。
初期リフォームで数百万、管理手数料5〜10%、空室リスク。
置く「まだ決められない」ときの、期限付き猶予固定資産税・保険・光熱費・管理の手間が続く。
勧告を受けると住宅用地特例が外れる。
そして2つの締め切りが減り続ける。

「貸す」の見落とされがちな副作用

親名義のまま貸すと、家賃収入は親の不動産所得になります。ここが介護と直結します。

介護保険の自己負担割合(1〜3割)や高額介護サービス費の上限は、本人の所得で決まります。家賃収入で所得が増えると、介護費用の自己負担が上がる可能性があります。月10万円の家賃が入っても、介護の負担が上がれば手取りは思ったほど残りません。

金額次第なので一概には言えませんが、「家賃収入」だけを見て判断すると、後で計算が合わなくなります。

「税金6倍」の正確な話

空き家の記事には必ず「特定空き家に指定されると固定資産税が6倍」と書いてあります。正しくは、こうです。

何が起きているのか住宅が建つ土地には住宅用地特例があり、小規模住宅用地(200㎡以下の部分)は課税標準が1/6になっています。これが外れると、元に戻る。「6倍になる」のではなく「1/6の優遇が消える」という話です。
いつ外れるのか指定された時点ではありません。「勧告」を受けた時点で外れます。
助言・指導の段階なら、まだ間に合います。放置しなければ、そこで止まる。
2023年12月の改正「特定空家」だけの話ではなくなりました。
放置すれば特定空家になるおそれがある「管理不全空家等」も、勧告を受ければ特例解除の対象に。
ハードルが、明確に下がっています。

2023年12月13日施行の改正空家等対策特別措置法による。
※税額が単純に6倍になるとは限りません(負担調整措置等があるため)。正確な額は市区町村の資産税課へ。

つまり、普通に管理していれば、すぐ増税されるわけではありません。草を刈り、換気し、郵便物を溜めない。怖いのは税金より、「誰も見に行かなくなること」です。

遠方だと、これが続きません。月1回の帰省が、半年に1回になり、いつしか行かなくなる。そして近隣から苦情が来て、初めて動く。空き家管理サービス(月5,000〜1万円程度が目安)を使うのも現実的な選択です。

リハウルフ
遠方のご家族ほど、実家の劣化に気づくのが遅れます。近所の方に一声かけておくだけでも、全然違いますよ。

決める順番

「売るか貸すか」から考えるから、決まらないのです。順番を変えてください。

  1. 親の意思を確認する(最優先・期限あり) 話せるうちに。ここを飛ばすと、後で全部が難しくなります。
  2. 「いつまでに売れば控除が使えるか」を確定させる 親が住まなくなった日を特定する。そこから3年。カレンダーに入れてください。
  3. 査定を取る(3社以上) 売らなくても取る。金額が分からないまま、きょうだいで話しても決まりません。数字が出た瞬間に議論が進みます。
  4. 親の介護費用の見通しと突き合わせる 施設費用が足りるなら急がなくていい。足りないなら、実家は資金源です。
  5. その上で、売る・貸す・置くを決める ここまで来れば、たいてい答えは出ています。

きょうだいでの話し合いは、感情の問題に見えて、実は情報がないから揉めます。査定額、控除の期限、親の意思。この3つが揃うと、驚くほど話が早い。

売ると決めた後に、忘れられること

手続きの話ではありません。親のことです。

施設にいる親にとって、実家は「帰る場所」です。たとえ二度と帰れなくても、「家がある」と思えていることが、その人を支えていることがあります。

売却を伝えた後、目に見えて元気がなくなる方を、何人も見てきました。だから「黙って売る」家族もいます。それを責めるつもりはありません。ただ、後で知った時のショックは、もっと大きい。

リハウルフ
伝え方は変えられます。「売った」ではなく「あなたが安心して暮らせるように、家に働いてもらうことにした」。同じ事実でも、受け取り方が変わります。

それと、写真だけは撮っておいてください。家財を片付ける前に、部屋ごとに。売った後、親が「あの家、どうなった?」と聞くことがあります。写真があると、その会話が全然違うものになります。

リハウルフ
査定は、売る決心がついてから取るものだと思われがちです。逆です。数字がないと、家族は永遠に決められません。

よくある質問

生前に子の名義へ変更しておけばよいのでは?
安易にやると損します。生前贈与は贈与税が重く、3,000万円の特別控除も使えなくなることがあります(子は住んでいないため)。相続で取得したほうが有利なケースが多い。必ず税理士に相談してください。
空き家でも火災保険は必要ですか?
必要です。ただし空き家は「住宅物件」ではなく一般物件扱いになり、保険料が上がる・引き受けを断られることがあります。誰も住まなくなったら、保険会社に必ず通知を。黙っていると、いざという時に支払われないことがあります。
遺品整理はいつやればいいですか?
売却前に必要ですが、親が生きているなら「遺品」ではありません。「これは残す、これは処分していい」を本人に聞きながら進められるのは、今だけです。
相続放棄すれば、管理しなくてよくなりますか?
単純にはそうなりません。相続放棄をしても、次の管理者が決まるまで一定の管理義務が残る場合があります。「放棄すれば終わり」とは考えないでください。

まとめ

📌 実家問題は「選ぶ」より「間に合わせる」
  1. 親が元気なうちに意思を聞く 認知症が進むと、家族でも売れません。
  2. 「住まなくなった日」から3年をカレンダーに入れる 3,000万円控除の期限。過ぎたら戻りません。
  3. 貸す前に、税理士に聞く 賃貸に出すと、相続空き家の3,000万円控除が消えます。
  4. 家賃は親の所得。介護の負担割合に響く 収入だけ見て判断しない。
  5. 増税は「勧告」から。管理不全空家も対象になった 普通に管理していれば、すぐには起きません。
  6. 迷っているなら、まず査定を3社 数字が出ると、話が動きます。

今日やることは、一つで十分です。親が実家を出た日が、いつだったか調べてください。そこから、あなたの締め切りが決まります。

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参考にした情報(公的機関)

本記事は一般的な情報提供を目的としており、税務・法務上の助言ではありません。特例の適用可否は個別事情で変わり、要件も細かく定められています。実際の判断は必ず税理士・司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。

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この記事を書いた人

リハウルフのアバター リハウルフ 理学療法士/ケアマネ

理学療法士(2010年取得・16年目)。通所リハビリ、訪問看護ステーション、訪問リハビリ、介護医療院、回復期リハビリ病棟で勤務。うち12年が在宅の現場で、訪問したお宅は1,000件を超えます。『リハコネ式!訪問リハのためのルールブック』監著・編集。2026年に介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を取得しました。

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