「そろそろ、運転をやめてほしい」
——そう思っても、正面から言えば、まず反発されます。
リハウルフ親の運転が、心配になってきた。でも「やめて」と言うと、怒る。「まだ大丈夫だ」と、聞く耳を持たない。
この記事では、感情論で終わらせず、「事実」と「代わりの足」で動かす方法をお伝えします。返納を急がせる前に、知っておくべきことがあります。
- 「危ないから」で説得しても、まず動きません
- 効くのは「代わりの足」を、先に用意すること
- 75歳以上は、法律で認知機能検査が義務。制度を”使う”
- 認知症と診断されたら、運転は法的に認められません
運転をやめるべき、7つのサイン
まず、客観的に見てください。感情ではなく、事実として。
- 車に、こすった傷・へこみが増えた(本人は「覚えていない」)
- 車庫入れや、縦列駐車が下手になった
- ブレーキとアクセルを、踏み間違えたことがある
- 信号や標識を、見落とすことがある
- 同乗すると、ヒヤッとすることが増えた
- 道を間違える、迷うようになった
- 反応が、明らかに遅くなった
特に「車の傷が増えた」は、危険なサインです。ぶつけた記憶がないということは、危険を認識できていない、ということです。
【制度を味方に】75歳以上の、免許更新の壁
ここが、この記事でいちばん役に立つところです。
家族が説得しなくても、法律の側に「壁」があります。これを、味方につけてください。
① 認知機能検査(全員)
更新前に、認知機能検査を受けなければなりません。結果は3つに分類されます。
「認知症のおそれがある」と判定されると、医師の診断が必要になります。
② 運転技能検査(一定の違反歴がある人)
過去に一定の違反歴がある75歳以上の方は、運転技能検査に合格しないと、更新できません。信号無視や逆走などの違反が対象です。
③ 高齢者講習
実車指導などを含む講習を受けます。



つまり——家族が「やめて」と言わなくても、検査や更新のタイミングが、自然な「区切り」になります。「検査で引っかかったら、そのときに考えよう」と、本人に委ねる形にすると、角が立ちません。
【最重要】認知症と診断されたら、運転はできません
認知機能検査で「認知症のおそれ」と判定され、医師に認知症と診断された場合、免許は取消し、または停止になります。
認知症と診断された人が運転することは、法的に認められていません。
これは、本人の意思とは関係ありません。「本人が納得しないから」では、済まされない問題です。
もし、認知症が疑われるのに運転を続けているなら、それは、事故が起きる前に止めなければなりません。万が一、人身事故を起こせば、本人の人生も、被害者の人生も、家族の人生も、すべてが変わります。
まず、かかりつけ医に相談してください。医師から「運転は控えましょう」と言ってもらうのが、いちばん本人が受け入れやすい形です。
説得の順番|「代わりの足」を、先に用意する
ここが、いちばんのコツです。
親が返納を拒む、本当の理由を考えてください。それは「運転が好き」だからではありません。「車がないと、生活できなくなる」という不安です。
だから、「やめて」より先に「代わりはこれがあるよ」を見せる。これが順番です。
- まず、共感する(否定しない) 「今まで、運転してくれてありがとう」から入る。頭ごなしに「危ない」と言わない。プライドを守ることが、第一歩です。
- 具体的な不安を、事実で伝える
「この前、車に大きな傷があったよ。何かあった?」
責めるのではなく、心配として。「あなたに何かあったら、私が困る」という伝え方を。 - 第三者から言ってもらう 家族の言葉は、いちばん聞いてもらえません。医師、警察の講習、孫の一言。「先生がそう言うなら」で、動くことがあります。
- 代わりの足を、具体的に見せる ここが決め手です。「タクシー代は、私が出すから」「〇〇の宅配を頼もう」「送迎するよ」。不安が消えれば、手放しやすくなります。
- 返納の特典を、伝える 「やめる」ではなく「得する」に、話を変える。次で詳しく説明します。
返納すると、こんな特典があります
運転免許を自主返納すると、「運転経歴証明書」がもらえます。これが、身分証明書の代わりになり、さまざまな特典の対象になります。
| 交通 | バス・タクシーの割引、コミュニティバスの優遇 |
|---|---|
| 買い物 | デパート・スーパーの割引、宅配料金の無料化 |
| 金融・その他 | 定期預金の金利優遇、飲食店の割引など |
内容は、自治体や店舗によって大きく異なります。「〇〇市 免許返納 特典」で検索するか、お住まいの市区町村・警察署に確認してください。



返納後の「足」を、どう確保するか
返納がうまくいくかどうかは、ここにかかっています。足がなくなると、閉じこもり、一気に弱ります。
| タクシー(割引) | 返納特典で割引に。「車を持つより安い」ことも。維持費・保険・車検を考えれば |
|---|---|
| 介護タクシー | 要介護認定があり、通院に介助が必要なら。介助部分に介護保険が使えます |
| コミュニティバス | 自治体運営の、低料金の巡回バス |
| 家族の送迎 | 全部は無理。「通院だけは」など、範囲を決めて |
| 宅配・配食 | 買い物に行かなくて済む。食事も届く |
意外と、車より安いんです
車の維持費は、ガソリン・保険・車検・税金で、年間数十万円かかります。その分をタクシー代に回せば、実はかなり乗れます。
「タクシーは高い」というのは、思い込みです。車の維持費と比べれば、むしろ安いことが多い。この計算を、本人に見せてください。
通院の足が心配なら、介護タクシーという選択肢もあります。料金の仕組み(介助は保険、運賃は自費)は、こちらで詳しく解説しています。
「地方で、車がないと無理」という場合
これは、きれいごとでは済みません。公共交通がない地域では、車は生活必需品です。
それでも、認知症の診断が出ている、明らかに危険な運転をしている——そういう場合は、事故のリスクと天秤にかけざるを得ません。
- デイサービスの送迎(通う日は、これで外出できる)
- 訪問診療・訪問看護(通院そのものを、なくす)
- 宅配・配食・移動スーパー(買い物を、家で完結)
- 自治体のデマンドタクシー・乗合タクシー(予約制の相乗り)
- 親戚・近所との助け合い
「車をなくす」のではなく「車がなくても暮らせる仕組みを作る」。ケアマネと一緒に、組み立ててください。
どうしても、やめてくれないとき
手を尽くしても、返納しない。運転を続ける。その場合の、最終手段です。
- かかりつけ医に、はっきり言ってもらう 「運転はやめましょう」と、医師の口から。これが、いちばん効きます。
- 車を、物理的に使えなくする 車を手放す、鍵を預かる、バッテリーを外す。最終手段ですが、事故を起こすよりはるかにいい。
- 警察・免許センターに相談する 認知症などで危険が明らかな場合、家族が公安委員会に情報提供できる制度(届出)があります。免許センターに相談してください。
心を鬼にする場面もあります。
親に嫌われても、事故で誰かを傷つけるよりは、ずっといい。そう割り切らなければならないときが、あります。それは、親を守ることでもあります。
よくある質問
- 認知症でも、運転できてしまうのでは?
- 物理的には運転できても、法的には認められていません。認知症と診断された場合、免許は取消し・停止の対象です。万が一事故を起こせば、責任は重大です。診断が出ているなら、運転は止めなければなりません。まず、かかりつけ医に相談を。
- 返納したら、身分証明書がなくなりませんか?
- 「運転経歴証明書」が交付されます。これが、運転免許証と同じように身分証明書として使えます。一生有効です。返納特典を受けるためにも、必ず申請してください。
- 一度返納したら、二度と運転できませんか?
- 自主返納すると、その免許は失効します。再び運転したい場合は、改めて教習所に通い、試験を受け直す必要があります(実質的に、再取得は困難です)。それだけに、返納は慎重に、でも危険があるなら決断を。
- 親が「事故なんて起こさない」と言い張ります
- 「起こさない」ではなく「起こしたら、どうなるか」を伝えてください。加害者になれば、賠償・刑事責任・そして「人を傷つけた」という一生の後悔。「あなたを、加害者にしたくない」という言い方が、響くことがあります。
- 車がないと、閉じこもってしまいそうです
- その心配は、正しいです。だからこそ、返納とセットで「外出の機会」を作ってください。デイサービス、趣味の集まり、送迎付きの外出。「足を奪う」のではなく「別の足を用意する」。ケアマネに相談すれば、一緒に考えてくれます。
まとめ|奪うのではなく、用意する
- 「危ないから」では動かない。「代わりの足」を先に用意する
- 75歳以上は認知機能検査が義務。これを自然な「区切り」に使う
- 認知症と診断されたら、運転は法的に不可(本人の意思と無関係)
- 説得は共感→事実→第三者→代替手段→特典の順で
- 返納特典と「車より安い」計算を見せる
- 最終手段は医師・車の管理・公安委員会への届出
免許を手放すことは、親にとって「老い」を、はっきり突きつけられる出来事です。
だから、抵抗する。それは、わがままではなく、自然な感情です。
「取り上げる」のではなく、「これからも、困らずに出かけられる形」を、一緒に作る。その姿勢が伝われば、親も、少しずつ受け入れてくれます。
そして——事故が起きてからでは、遅いのです。親を加害者にしないために。今、動いてください。



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買い物に行かなくて済む、食事の宅配。
参考にした情報(公的機関)
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。免許制度・検査の詳細、自治体・店舗の返納特典は変更される場合があります。手続きの詳細は、お住まいの都道府県警察・運転免許センター、市区町村にご確認ください。









