「親の介護に、いったいいくらかかるのか」——見当がつかないまま不安だけが膨らむ。介護が始まったご家族が、まず抱えるのがこのお金の不安です。
結論から言うと、介護のお金は「かかる額」より「取りこぼす額」で家計が決まります。使える公的制度の多くは自分で申請しないと1円も戻らないからです。そして現場でいちばん深刻なのは、認知症が進んで親自身の口座が凍結され、介護費用が引き出せなくなる事態です。
この記事では、理学療法士・ケアマネジャーとして在宅のお宅を回ってきた私が、「かかる・もらえる・減らせる・備える」の全体像に加えて、パンフレットに載らない「お金でつまずく順番」まで、まとめてお伝えします。この1本で、お金の不安の輪郭がはっきりするはずです。
介護のお金は、この4方向で考えると整理できる
この記事の要点
- 介護費用は在宅で月5〜20万円、施設で月10〜30万円が目安
- もらえるお金の大半は申請しないと消える。順番を知るだけで数十万円変わる
- 最大のリスクは親の口座凍結。認知症が進む前の「見える化」が命綱
お金の話は、次の4方向に分けると混乱しません。①かかるお金 ②もらえるお金 ③減らせるお金 ④備えるお金。この順に見ていきます。
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リハウルフ①かかるお金|在宅と施設で、こんなに違う
介護費用は「在宅か施設か」で大きく変わります。以下は複数の民間調査を照合した目安です。住まいや要介護度で幅があるため、あくまで見当をつけるための数字と考えてください。
| 形態 | 月額の目安 | 10年の目安 |
|---|---|---|
| 在宅介護 | 5万〜20万円 | 約600万〜1,000万円 |
| 特養(特別養護老人ホーム) | 10万〜15万円 | 約1,200万〜1,800万円 |
| 介護付き有料老人ホーム | 15万〜30万円 | 約1,800万〜3,600万円+一時金 |
ここで大事なのは、この金額は「割引前」の定価だということです。後で説明する公的制度を使えば、実際の自己負担はぐっと下がります。まずは「満額だとこのくらい」という上限を知り、次に「いくら戻るか」を重ねていきましょう。
②もらえるお金|申請しないと消える公的制度
ここが本題です。介護のお金で損をするご家族の多くは、制度を知らずに「もらえたはずのお金」を取りこぼしています。しかもそのほとんどは、黙っていても振り込まれず、自分で申請して初めて戻るものです。
高額介護サービス費|上限を超えた分が戻る
1か月の介護サービス自己負担が、所得に応じた上限を超えると、超えた分が戻ります(福祉用具購入費・食費・居住費などは対象外)。
| 区分(世帯) | 負担上限(月額) |
|---|---|
| 一般的な所得の世帯 | 44,400円 |
| 住民税非課税の世帯など | 24,600円 |
| 生活保護受給者など | 15,000円 |
| 現役並み所得(高所得) | 93,000〜140,100円 |
多くの自治体では初回申請すれば以後は自動振込になりますが、最初の申請書が来たら必ず返送してください。放置している世帯を現場でよく見かけます。
高額医療・高額介護合算制度|医療と介護を合わせて軽減
1年間(8月〜翌7月)の医療保険と介護保険の自己負担を合算し、所得区分ごとの年間上限を超えた分が戻る制度です。入院と介護が重なった年は、これで大きく戻ることがあります。医療費がかさんだ年は、必ず市区町村に問い合わせてください。
住宅改修費・福祉用具購入費
- 住宅改修費:手すり・段差解消などに20万円まで・原則9割。工事の前に申請が必須。
- 福祉用具購入費:入浴・排泄用品など指定品目を年10万円まで・原則9割。
介護休業給付金|働きながら介護する家族に
家族の介護のために仕事を休むと、雇用保険から賃金の約67%・通算93日まで給付されます。これは「親のお金」ではなく介護する側(あなた)のお金。介護離職を防ぐための制度なので、勤務先とハローワークに早めに確認しましょう。
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③減らせるお金|控除と世帯分離で取り戻す
医療費控除|介護サービスも対象になる
1年間の医療費が10万円(所得により異なる)を超えると、確定申告で税金が戻ります。見落とされがちですが、訪問看護や施設サービスの一部、通院の交通費も対象になります。領収書は捨てずに1年分まとめておきましょう。
障害者控除|要介護でも受けられることがある
障害者手帳がなくても、市区町村が発行する「障害者控除対象者認定書」があれば、確定申告で障害者控除を受けられる場合があります。要介護認定を受けている親がいるなら、市区町村に発行可否を確認する価値があります。
世帯分離|安くなることも、逆に損することも
世帯分離は「必ず得」ではない
親を別世帯にすると介護費の上限が下がることがある一方、国民健康保険料や扶養控除で逆に損をするケースもあります。単純な節約術として飛びつかず、必ず試算してから判断してください。
【最重要】④備えるお金|親の口座が凍結される前に
ここが、この記事でいちばん伝えたい「現場の落とし穴」です。介護のお金で本当に困るのは、費用が高いことより、認知症が進んで親の口座からお金を引き出せなくなること——いわゆる「資産凍結」です。
金融機関は、口座名義人の判断能力が低下したと分かると、本人保護のために口座を事実上凍結します。そうなると、たとえ子どもでも、親の預金から施設費や医療費を引き出せません。私が担当したご家族でも、施設費を親の年金で払う予定が、認知症の進行で口座が動かせなくなり、子ども世帯が立て替えるしかなくなった例がありました。
凍結されると、こうなる
- 施設費・医療費を親の預金から払えない
- 実家の売却・賃貸もできない(名義が親のまま)
- 解除には成年後見人が必要で、時間も費用もかかる
まずは「親のお金の見える化」から
元気なうちに、どの銀行に口座があるか・年金額・保険・借入を親子で一度共有しておくだけで、いざという時の動きが全く変わります。「お金の話をするのは気が引ける」——分かります。でも、認知症が進んでからでは手遅れです。エンディングノート1冊から始めれば十分です。
家族信託・成年後見という選択肢
資産凍結への備えとして、家族信託(元気なうちに財産管理を家族に託す契約)や成年後見制度があります。家族信託は判断能力があるうちしか契約できないため、「まだ元気」な今こそ検討のタイミングです。仕組みが複雑なので、専門家に無料相談で全体像だけでも聞いておくと安心です。
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民間の介護保険は入るべき?|入る人・入らない人
すでに介護が始まっている親は、民間の介護保険にはほぼ入れません。検討する意味があるのは「自分自身の将来の介護」に備える現役世代です。
入った方がいい人/急がなくていい人
- 入る価値あり:貯蓄が少なく、要介護時に現金給付が欲しい/頼れる家族が少ない
- 急がなくてよい:十分な貯蓄・資産がある/公的制度で足りると試算できている
保険は「不安だから」で入ると割高になりがちです。まず公的制度でいくら賄えるかを把握し、足りない分だけ民間で補う——この順番が鉄則です。
お金の全体像に迷ったら|FP相談とプロの試算
「制度が多すぎて、結局わが家はいくら必要なのか分からない」——そう感じたら、介護に詳しいファイナンシャルプランナー(FP)への相談が有効です。親の年金・資産・想定期間から、わが家の数字に落とし込んでくれます。無料相談を上手に使い、まず全体像をつかむところから始めましょう。
兄弟・家族とお金の話をするときのコツ
介護のお金で家族が壊れる原因の多くは、金額ではなく「不透明さ」です。誰がいくら出しているか分からないと、疑いと不満が生まれます。
- 親のお金と子のお金を分ける(まず親の年金・資産から払うのが原則)
- 出納を記録する(立て替えたら必ずメモ。あとで「使い込み」を疑われない)
- お金以外の貢献も評価する(同居・通院付き添いも立派な分担)
- 早めに全員で話す(親が元気なうちに方針を共有しておく)
現場では、遠方できょうだいが「金は出すが手は出せない」、近くの子が「手は出すが不公平」と感じてこじれるケースが目立ちます。記録を残し、貢献を金額だけで測らない——これだけで、もめごとはかなり防げます。
在宅か施設か|お金の分かれ道
介護のお金は、最終的に「在宅で続けるか、施設に移るか」で大きく分かれます。在宅は費用を抑えやすい反面、家族の時間と労力という「見えないコスト」がかかります。施設は費用が上がる分、家族の負担は軽くなります。
どちらが正解かは家庭ごとに違いますが、施設は費用の幅が非常に広いため、早めに複数の候補の料金を比べておくと、いざという時に慌てません。資料請求や相談を無料でまとめて行えるサービスを使うと効率的です。
介護のお金に関するよくある質問
- 親の介護費用は、子どもが払う義務がありますか?
- 「誰がいくら払う」という法律上のルールはありません。まず親自身の年金・資産から払うのが原則で、不足分をどう分担するかは家族で話し合って決めます。
- お金がなくて介護費用が払えないときは?
- まず高額介護サービス費や負担限度額認定など公的な軽減制度を使い切ってください。それでも厳しければ、地域包括支援センターに相談を。生活保護や貸付制度など、次の手を一緒に考えてくれます。
- 親の口座が凍結されたら、もう引き出せませんか?
- 原則、成年後見人を立てないと動かせません。だからこそ凍結される前の見える化・家族信託が重要です。すでに凍結された場合は、司法書士など専門家に相談してください。
まとめ|お金の不安は「順番」で消える
この記事のポイント
- 費用は在宅で月5〜20万円、施設で月10〜30万円。ただしこれは割引前の定価
- もらえるお金は申請しないと消える。ケアマネに「使える制度を全部」聞く
- 控除・世帯分離は試算してから。逆に損することもある
- 最大のリスクは資産凍結。元気なうちに見える化と備えを
介護のお金は、金額の大きさそのものより、制度を使う順番と、備えのタイミングで結果が変わります。まずはケアマネジャーと地域包括支援センターに相談し、「もらえるお金」を取りこぼさないこと。そして親が元気なうちに、お金の話を一度きちんとしておくこと。この2つで、漠然とした不安の多くは消えていきます。
参考にした情報(公的機関)
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。金額区分や取り扱いは改定・地域差があるため、申請前にお住まいの市区町村・ケアマネジャーに最新の情報をご確認ください。
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制度が多すぎて整理できない方は、プロに全体像を聞くのが近道です。









