親の介護が始まり、仕事との両立に限界を感じたとき、「いっそ仕事を辞めて介護に専念しようか」という考えが頭をよぎります。でも、その前に必ず知っておいてほしいことがあります。
介護のために仕事を辞めても、介護はラクになりません。むしろ、収入・逃げ場・社会とのつながりを一度に失い、親子で共倒れになるケースを、私は現場で何度も見てきました。
私は理学療法士・ケアマネジャーとして、働きながら介護をするご家族を数多く支えてきました。この記事では、「辞める」を選ぶ前にできる7つの手を順番に、そして競合サイトがあまり書かない「離職した人が、その後どうなったか」の現実まで正直にお伝えします。
介護離職の実態|毎年およそ10万人が辞めている
介護・看護を理由に仕事を辞める人は、毎年およそ10万人にのぼります。決して他人事ではありません。そして注目すべきは、辞めた人の多くが「後悔している」というデータです。
「辞めれば介護に集中できて、負担も減るはず」——多くの人がそう考えて離職します。ところが実際は逆で、負担が増したと感じる人のほうが多いのです。なぜこんなことが起きるのか。まずそこから見ていきます。
辞める前に知ってほしい|「離職しても介護はラクにならない」
ここは、制度リストだけの記事では書かれない部分です。私が現場で見てきた「離職したご家族」に起きたことを、正直にお伝えします。脅すためではなく、後悔してほしくないからです。
① 収入が絶たれると、介護サービスも削ることになる
離職すると収入が途絶えます。すると「デイサービスの回数を減らそう」「ヘルパーを断ろう」と、介護サービスまで節約せざるを得なくなる。その分、介護は全部あなたに戻ってきます。プロに任せていた部分を自分で抱え込む——負担が増えるのは当然です。
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② 24時間の張り付きで、逃げ場がなくなる
仕事があるうちは、職場が「介護から離れられる時間」でした。辞めると、それが消えます。逃げ場のない24時間の介護は、想像以上に人を消耗させます。「仕事のほうがまだ息抜きだった」と漏らすご家族は、本当に多いのです。
③ 「親のために辞めた」のに、関係が悪化する
逃げ場をなくし、収入も失い、社会とのつながりも薄れる。追い詰められた介護者は、笑顔を失います。すると親も気を遣い、家の中の空気が張り詰める。「親のために」始めたはずの介護で、親子関係がこじれていく——これが共倒れの入り口です。
④ 再就職の壁は、思っている以上に高い
介護が落ち着いてから再就職しようとしても、そう簡単にはいきません。ブランクや年齢、「また介護で休むのでは」という企業側の懸念から、採用は慎重になりがちです。前述のとおり、再就職できた人は約4割。収入が元に戻らないリスクは、現実として存在します。



【結論】辞める前にやる7つの手
「辞めない」を実現するには、順番があります。上から手をつけてください。全部やる必要はなく、①〜③だけでも状況は大きく変わります。
- ① 会社の制度を全部洗い出す(2025年から会社の義務が強化)
- ② 介護休業は「体制づくり」に使う
- ③ 在宅介護を「仕組み化」する
- ④ ケアマネは「働く家族向け」の人を選ぶ
- ⑤ ショートステイを予防的に使う
- ⑥ 家族で役割分担を「見える化」する
- ⑦ 自分の限界サインを見張る
手①:会社を辞める前に「制度」を全部洗い出す
意外と知られていませんが、会社には介護と両立するための制度が用意されています。まずは自社に何があるか、全部確認しましょう。
確認したい両立支援の制度
- 介護休業:対象家族1人につき通算93日まで(3回まで分割可)
- 介護休暇:年5日(対象家族2人以上なら10日)。時間単位でも取得可
- 所定外労働・時間外労働の制限(残業の免除)
- 短時間勤務・時差出勤・在宅勤務などの柔軟な働き方
さらに追い風があります。2025年4月から、育児・介護休業法が改正され、介護に直面した従業員への制度の個別周知・意向確認や、相談窓口の整備などが会社の義務になりました。つまり、「介護で困っている」と申し出れば、会社は制度を案内する立場にあるということ。まずは人事や上司に相談することが、以前より格段に動きやすくなっています。



手②:介護休業は「専念」ではなく「体制づくり」に使う
介護休業でいちばん多い誤解が、「93日、自分が介護に専念するための休み」だと思ってしまうこと。これは違います。93日で親を看きることはできません。
正しい使い方は、この期間に「自分がいなくても回る仕組み」を作ること。要介護認定、ケアマネ選び、サービスの導入、住宅改修、家族の役割分担——これらを整え、休業明けも仕事を続けられる状態にする。介護休業は「準備期間」なのです。
なお、一定の要件を満たせば、雇用保険から介護休業給付金(休業前賃金の一定割合)が受けられます。無収入で休むわけではないので、経済的な不安も一定は抑えられます。
手③:在宅介護を「仕組み化」する
両立の核心はここです。「自分が全部やる」から「役割を分ける」へ発想を切り替えます。介護を、プロ・サービス・家族・テクノロジーに分散させるのです。
- デイサービス:日中の居場所と入浴・食事を確保(あなたの就労時間をカバー)
- ヘルパー:食事・排泄・掃除などを定期的に
- 配食サービス:食事の心配と安否確認を同時に
- 見守りカメラ・センサー:仕事中の不安を減らす
ただし、介護保険のヘルパーには「できないこと」が多くあります。通院の付き添い、留守番、話し相手、庭仕事——こうした「制度の隙間」を埋める保険外サービスをうまく使えると、両立のハードルはぐっと下がります。「仕事で動けない平日昼間だけ、誰かに任せたい」といったピンポイントの困りごとにこそ効きます。
保険では頼めない付き添いや見守りを、必要なぶんだけスポットで依頼できるサービスもあります。「辞めるかどうか」で悩む前に、まずはこうした選択肢で穴を埋められないか、資料や見積もりで確認してみてください。
手④:ケアマネは「働く家族向け」の人を選ぶ
ケアマネジャーは、両立の司令塔です。ただ、ケアマネにも得意分野や考え方の違いがあります。両立を目指すなら、「働きながら介護する家族」を支えた経験が豊富なケアマネが心強い味方になります。
最初の面談で、「仕事を続けたい」「平日の日中は動けない」とはっきり伝えましょう。その前提でケアプランを組んでくれるかどうかが、見極めのポイントです。合わなければ、変更もできます。
手⑤:ショートステイを「予防的に」使う
ショートステイ(短期入所)は、親に施設へ短期間泊まってもらうサービス。「もう限界」というときの緊急避難に使う人が多いのですが、本当に賢いのは「予防的に」使うことです。
倒れる前に、定期的に休む。月に数日でもショートステイを組み込んでおけば、あなたは確実に休息を取れます。「休むことに罪悪感を持たない」——これが両立を長続きさせる最大のコツです。介護は短距離走ではなく、マラソンです。



手⑥:家族で役割分担を「見える化」する
介護が一人に集中すると、その人がまず潰れます。きょうだいや親族がいるなら、「誰が・何を・いつ」担当するかを紙に書き出して共有しましょう。口約束は必ずあいまいになります。
直接介護ができない人でも、「お金は出す」「電話連絡は担当する」「月1回は帰省する」など、できることは必ずあります。「なぜ自分ばかり」という不満は、あとで大きな家族トラブルに発展します。役割の見える化は、関係を守るためでもあります。
手⑦:自分の「限界サイン」を見張る
両立を続けるうえで、最も大切なのはあなた自身が倒れないことです。介護者が心身を病む「介護うつ」は、静かに進行します。次のようなサインが出たら、すぐにケアマネや地域包括支援センターに相談してください。
こんなサインは危険信号
- 眠れない・食欲がない日が続く
- 何をしても楽しくない、涙が出る
- 親に対してイライラが抑えられない
- 「いなくなればいい」と思ってしまうことがある
これは「気の持ちよう」ではありません。あなたが倒れたら、親を支える人がいなくなります。自分を守ることは、親を守ることと同じです。



それでも「辞める」を考えるなら|確認する3つ
7つの手を試してもなお両立が難しい状況は、確かにあります。その場合でも、勢いで辞めないこと。最低限、次の3つを確認してからにしてください。
介護期間は数年〜十数年に及ぶことも。無収入で何年耐えられるか、具体的に計算する。
完全に辞める前に、休職や短時間勤務で乗り切れないか。籍を残せば、戻る場所がある。
「自分が辞める」より「施設に頼る」ほうが、親子とも幸せなケースは多い。費用を含めて比較する。
よくある質問
- 介護休業給付金はいくらもらえますか?
- 一定の要件を満たすと、休業開始前の賃金の一定割合が、雇用保険から支給されます。金額や要件は状況により異なるため、勤務先やハローワークで確認してください。無収入で休むわけではない、と知っておくだけでも安心感が違います。
- 会社に介護のことを言い出しにくいのですが。
- 2025年4月の法改正で、介護に直面した従業員への制度周知や相談対応が会社の義務になりました。「介護で困っている」と伝えれば、会社は制度を案内する立場です。以前より相談しやすくなっているので、一人で抱え込まないでください。
- きょうだいが協力してくれません。
- 直接介護以外の役割(お金・連絡・帰省)を振り分けましょう。それでも難しければ、ケアマネや地域包括支援センターに家族間の調整を相談できます。一人で背負う設計にした時点で、両立は崩れやすくなります。
- もう限界です。今すぐ休みたい。
- まずショートステイで親に短期間預かってもらい、あなたが休む時間を確保しましょう。ケアマネに「緊急で休みたい」と伝えれば、調整してくれます。辞める判断は、心身を回復させてからでも遅くありません。
まとめ|「辞める」前にできることは、まだまだある
介護離職は、一見いちばんの親孝行に見えて、実は収入・逃げ場・社会とのつながりを一度に失うリスクの高い選択です。辞めても介護はラクにならず、多くの人が後悔しています。
やるべきは、① 会社の制度を洗い出す → ② 介護休業で体制づくり → ③ 在宅を仕組み化 → ④〜⑦ で支えを重ねる。この順番で、「辞めずに回す」道を先に試してください。
まずは今日、勤め先の人事に「介護のことで相談したい」と一言。2025年からは、それに応えるのが会社の義務です。あなたが仕事を続けられることが、親を長く支える土台になります。
参考にした情報(公的機関)
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。制度の詳細や運用は変わることがあるため、実際の手続きの際は公的機関の最新情報や勤務先の規定をご確認ください。
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