「親が倒れた」「親が認知症と診断された」──その日からあなたの頭の中は、ぐるぐると回っているはずです。介護保険って? ケアマネさんって? お金は? 仕事は辞めるべき? たった1日で、答えのない質問が押し寄せてきます。
私は理学療法士+介護支援専門員(ケアマネジャー)として、これまで何百組ものご家族と出会ってきました。そのほぼ全員が、同じ場所で立ち止まり、同じ順番で混乱します。
この記事では、介護が始まったら 最初の1ヶ月で何を、どの順番でやるか を「7つのステップ」にまとめました。読み終わるころには、明日からの動き方が見えているはずです。
ステップ1:最初の24時間は「大きな決断をしない」と決める
最初のアドバイスは、意外に思われるかもしれません。動くのではなく 「動かない」 ことから始めます。
24時間以内の決断は8割が後悔につながる
親が倒れた直後の家族は、思考力が普段の半分以下に落ちています。その状態で「家を売って同居する」「仕事を辞める」「兄弟に怒鳴る」などの決断をすると、ほぼ後悔します。
私が現場で出会うご家族の多くも、「初日に下した決断」を後で悔やまれています。介護は数年単位の長距離走です。スタートで全力疾走すると、半年もたずに息切れします。
最初の24時間でやるのは「明日やることを3つ書く」だけ
紙でもスマホのメモでも構いません。
- 明日、誰に電話するか
- 明日、何を確認するか
- 明日、どの書類を探すか
この3つだけを書き出して、いったん深呼吸してください。人生を変える判断は、1週間後でも遅くありません。
兄弟・配偶者には「現状報告」だけ
「親がこういう状態になった」という事実だけを共有して、判断や役割分担はまだ持ち出さないこと。家族会議は、もう少し落ち着いてから開きます(ステップ4で詳しく解説します)。
ステップ2:地域包括支援センターに電話する
24時間が過ぎたら、次に動く場所は1つです。地域包括支援センター(通称:包括) に電話してください。電話1本で「これからやるべきこと」がほぼ全部分かります。
地域包括支援センターって何?
包括は市区町村が設置している、高齢者と家族のための「最初の窓口」 です。保健師・社会福祉士・主任ケアマネが配置されていて、
- 介護保険の使い方
- 要介護認定の申請方法
- 地域のサービス情報
- ケアマネ事業所の紹介
など、すべて無料で相談に乗ってくれます。役所より敷居が低く、親身に聞いてくれるのが特徴です。
探し方は「市区町村名 + 地域包括支援センター」で検索
Google検索で一発で出てきます。注意点は、親が住んでいる市区町村 の包括に電話することです(あなたの住所地ではありません)。
遠距離介護の方は、電話だけでも十分相談に乗ってくれます。最初の電話はオンライン・電話で済ませて、次回帰省時に対面相談へ進むのが効率的です。
電話で言うべき「最初の一言」
長い説明は要りません。たった一言でOKです。
「父(母)の介護のことで、相談したいのですが…」
それだけで、相手はベテランの専門職です。順番に質問してくれて、必要な情報を引き出してくれます。あなたから整理して話す必要はありません。
ステップ3:要介護認定を申請する
包括への電話と並行して進めるべきが、要介護認定の申請 です。これがないと介護保険サービスが1円も使えません。
要介護認定で何が変わる?
認定が下りると、訪問介護・デイサービス・福祉用具レンタル・施設入居などの介護保険サービスが 1割〜3割の自己負担 で使えるようになります。
たとえば要介護2の方なら、月額上限19万7,050円分のサービスを、1割負担なら約2万円で利用できます。経済的にも、家族の負担軽減的にも、絶大なインパクトがあります。
申請窓口と必要書類
申請窓口は、市区町村の介護保険課または包括センターです。包括に頼めば申請の代行もしてくれます。
必要なものは以下です。
- 介護保険被保険者証(65歳の誕生月に届きます)
- 主治医の情報(病院名・科・医師名)
- 申請書(市役所・包括にあります)
- マイナンバーや本人確認書類
申請から認定までの流れ
申請から認定結果が出るまで、約1ヶ月 かかります。だから「介護が必要かも」と思った時点ですぐ申請するのが鉄則です。認定結果が出てから動き出すと、最初の1ヶ月を丸ごと棒に振ります。
申請後の流れは、自宅への調査員訪問→主治医意見書→介護認定審査会、と進みます。調査員訪問のときは、家族も必ず同席 して、普段の生活で困っていることを具体的に伝えましょう。
ステップ4:兄弟・家族で「役割分担」を話し合う
ここで、多くのご家族がつまずきます。兄弟・家族の意見の違いが、介護の最大のストレス源 になることが、現場で本当によくあります。
必ず話し合うべき5つの項目
1日で全部決める必要はありません。ただし「決めないまま」が一番危険です。後から大ゲンカになります。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| ① キーパーソン | 主にケアマネと窓口になる人を1人決める |
| ② お金 | 親の年金・貯蓄の管理、不足分を誰が負担するか |
| ③ 同居/別居 | 親の希望と、現実的に可能な選択肢 |
| ④ 緊急時の対応 | 急変時に駆けつける担当、施設入居の判断者 |
| ⑤ 仕事との両立 | 介護休業を取る人、リモート対応する人 |
「公平」より「納得」を優先する
兄弟がいる場合、完全な公平は不可能です。住んでいる距離・経済状況・働き方が違うからです。
公平を目指すと必ず揉めます。代わりに 「お互いに納得できる役割」 を探しましょう。たとえば「お金は東京の兄が多めに、通いは地元の妹が中心」のように、得意分野で分担する 形が長続きします。
決定事項はLINEグループで文字に残す
口頭で決めたことは、必ず後で「言った・言わない」になります。家族LINEグループを1つ作って、決定事項を必ずテキストで共有しましょう。これだけで、後々のトラブルが半減します。
ステップ5:ケアマネを選ぶ
要介護認定が「要支援1〜2」または「要介護1〜5」と出たら、いよいよ ケアマネジャー(介護支援専門員) を決めます。家族にとって、これからもっとも頼れる存在になる人です。
ケアマネは何をしてくれるの?
ケアマネは、介護保険サービスを使うための 「ケアプラン(介護計画書)」を作る専門職 です。
- 親に必要なサービスを提案してくれる
- 各事業所との連絡・調整をしてくれる
- 月1回は訪問して、状態を確認してくれる
- 介護の困りごと全般を相談できる
ケアマネがいないと介護保険サービスは使えないので、最重要パートナーになります。
失敗しない3つの選び方ポイント
- 包括や知人から、最低3人を紹介してもらう(必ず複数比較)
- 「親の話をよく聞いてくれるか」を一番大事にする
- 自分の生活時間(平日夜・土日)に連絡が取れるかを確認
「働く家族向け」のケアマネは、LINE・メール対応OKだったり、土日にも電話可能だったりします。事務的なケアマネより、現役世代のあなたに合った人を選びましょう。
合わなければ何度でも変えていい
「ケアマネを変えたら失礼かな」と気を使う方が多いですが、ケアマネは何度でも変更できます。包括センターに「変えたい」と伝えれば、別の方を紹介してくれます。
ここで失敗すると、その後3年つらい思いをします。違和感を放置せず、早めに見直しましょう。
ステップ6:在宅か施設か、いま「決め切らない」で考える
ケアマネが決まったら、ケアプランを一緒に作っていきます。多くの方が悩むのが「在宅で見るべき? それとも施設?」という問いです。
いま決め切る必要はない
結論から言うと、この問いに今すぐ答えを出す必要はありません。介護は段階的に変わります。今は在宅で大丈夫でも、半年後には施設が必要になることもあれば、その逆もあります。
大事なのは「今の状況にベストな選択肢を選ぶ」こと。判断は1〜3ヶ月ごとに見直せばOKです。
在宅介護を選ぶ場合に最初に揃えるもの
在宅介護を選ぶなら、最初の1ヶ月で以下の「家族が倒れない仕組み」を整えるのが鉄則です。
- 宅配弁当(やわらかダイニング・シニアあんしん相談室など)
- 見守りカメラ(5,000〜15,000円)
- 訪問介護・デイサービス(介護保険)
- 福祉用具レンタル(手すり・介護ベッド)
これらを使えば、家族の負担は 3分の1以下 に減らせます。
施設入居を視野に入れる場合の進め方
施設入居は「諦め」ではなく、「親と家族の幸せを守る選択肢」です。
ポイントは 複数施設の資料請求から始める こと。1施設だけ見て決めると、ほぼ後悔します。資料請求は完全無料、最低3施設は比較するのが鉄則です(詳しくは末尾の関連記事へ)。
ステップ7:自分自身を守る5つのルール
最後のステップが、実は一番大事です。「介護する側のあなた自身を守る」 こと。
倒れるのは親より先にあなたかもしれない
厚生労働省のデータでも、年間約10万人が介護を理由に離職しています。介護を担う家族の 約4人に1人 が、うつ症状を経験するとも言われます。倒れるのは親より先に、あなた自身かもしれないのです。
自分を守る5つのルール
- 完璧を目指さない:80点で十分。できないことは外注する
- 1人で抱え込まない:兄弟・友人・ケアマネに「弱音を吐く」のも仕事
- 介護休業給付金を知る:最大93日、給与の67%が出る制度です
- ショートステイを「予防的に」使う:限界が来てからではなく、定期的に親に泊まってもらう
- 自分の楽しみを捨てない:旅行・趣味・友達との時間を「予定として死守する」
「親孝行」の定義を変えよう
親孝行とは、親のためだけに自分の人生を捧げることではありません。自分の人生も大切にしながら、親の人生にも寄り添うこと です。
あなたが疲れ果てた顔で介護をしても、親は喜びません。むしろ「自分のせいで娘がつらそうだ」と苦しみます。あなたの笑顔こそ、親への一番の贈り物 です。
まとめ:「順番」が分かれば、介護は怖くない
最後にもう一度、7ステップを振り返ります。この順番を守れば、最初の1ヶ月で「介護のスタート地点」に立てます。
| ステップ | やること | 目安期間 |
|---|---|---|
| 1 | 24時間以内に大きな決断をしない | 初日 |
| 2 | 地域包括支援センターに電話する | 1週間以内 |
| 3 | 要介護認定を申請する | 1〜2週間以内 |
| 4 | 兄弟・家族で役割分担を話し合う | 1ヶ月以内 |
| 5 | ケアマネを決める(複数面談) | 認定後すぐ |
| 6 | 在宅 or 施設を「現時点」で選ぶ | 1〜3ヶ月 |
| 7 | 自分自身のケアを最優先課題にする | 常に |
親の介護は、あなた1人で抱えるものではありません。包括・ケアマネ・兄弟・サービスなど、頼れる人と仕組みは想像以上にたくさんあります。
迷ったら、いつでもこの記事に戻ってきてくださいね。あなたのペースで、大丈夫です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親が「介護なんていらない」と拒否します。どうすれば?
A. これは本当によくあります。「介護保険」と言わず「市の高齢者サービス」「健康チェック」と言い換える、ケアマネとの初回面談を「市役所の職員さん」と紹介する、など、言葉を選ぶだけで受け入れてもらえることが多いです。それでも難しければ包括センターに相談を。
Q2. 兄弟が協力してくれません。
A. 残念ながらあります。怒りでエネルギーを消耗するのが一番もったいないので、兄弟に過度に期待しすぎないこと。ただしお金の負担と意思決定への参加だけは、必ず文字で共有して残しておきましょう。
Q3. 仕事を辞めるべきですか?
A. 絶対に辞めないでください。 辞めた後の再就職は本当に難しく、収入も大幅に下がります。介護休業給付金(最大93日・給与67%)、介護休暇、時短・リモート勤務などの制度を使い倒してください。

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