「親の最期を、家で看取るべきか。施設にお願いすべきか」——この問いに、正解はありません。ですが、決め方の順番と、選んだ後に実際に何が起きるかを知っておくだけで、後悔はぐっと減ります。
私は理学療法士として16年、訪問リハビリの現場で数多くのご家族の看取り期に立ち会ってきました。この記事では、在宅と施設のメリット・デメリットだけでなく、多くのご家族が「途中で決断を変える」現実と、そのとき慌てないための備えまでお伝えします。
この記事でわかること
- 看取り期に、体と気持ちに何が起きるか(5つの段階)
- 在宅・施設それぞれの本当のメリットとデメリット
- 「在宅で始めて、施設に切り替わる」という現場で最も多いパターン
- 決断が止まる2大原因と、家族での決め方の順番
- 看取り後に残る「あれでよかったのか」との向き合い方
まず知っておきたい|「看取り期」とはいつのことか
看取り期とは、病気の治療で回復を目指す段階を過ぎ、残された時間を穏やかに過ごすことを最優先にする時期を指します。医師から「これ以上の積極的な治療は難しい」「あとは数か月から半年くらい」といった見通しが示されたあたりが、その入り口です。
この時期に大切なのは、「病気を治す」から「その人らしく過ごす」へと、家族の頭を切り替えることです。ここが切り替わらないまま最期を迎えると、「もっと何かできたのでは」という後悔が残りやすくなります。
リハウルフ看取りまでの一般的な流れ|体に起きる5つの変化
看取り期の体の変化には、ある程度の順番があります。あらかじめ知っておくと、いざそのときに「何かの異常では」と慌てずにすみます。
食欲が落ち、好きだったものも少しずつ受けつけなくなります。無理に食べさせようとせず、本人が欲しがるものを少量で。これは自然な経過です。
一日の大半をうとうと過ごすようになります。起こそうとせず、そばにいる時間を大切に。
言葉が減っても、耳は最後まで働くと言われています。声かけや手を握ることは届いています。
ゴロゴロという音(喉の分泌物)や、間隔の空いた呼吸が現れることがあります。本人が苦しいわけではないケースが多いとされています。
血の巡りが穏やかになるサイン。ここまで来たら、そばで見守る時間です。
大事なこと
これらの変化は「悪化」ではなく、体が自然に閉じていく過程です。ただし判断に迷ったら、必ず訪問看護師や医師に電話で相談してください。夜間でも連絡できる体制があるかどうかが、後で効いてきます。
在宅で看取る|メリットとデメリット
在宅のメリット
- 住み慣れた家で、最期まで本人らしく過ごせる
- 面会時間の制限がなく、家族がいつでもそばにいられる
- 孫やペットなど、本人が会いたい相手と自然に過ごせる
- 本人の「家に帰りたい」という希望を叶えられる
在宅のデメリット
- 介護の主力は家族。夜間の対応も含め、負担が大きい
- 急変時に、医療者がすぐ駆けつけられるとは限らない
- 「自分たちのケアで本当にいいのか」という不安が続く
- 家族の心と体が先に限界を迎えることがある
在宅看取りは理想的に語られがちですが、実際に支えるのは家族です。私が見てきたケースでも、最後まで在宅を貫けたご家族には共通点があります。それは「頑張れる家族」だったからではなく、早い段階で外部の力を組み込んでいたからです。
在宅を支える「5つの柱」
特に大切なのは、「夜間・休日に電話一本で相談できる医療の窓口」があるかどうかです。訪問看護には24時間連絡を受ける体制(厚労省の制度上も位置づけられています)があり、これがあるだけで家族の不安はまったく違います。ケアマネジャーに「24時間対応してくれる訪問診療・訪問看護をお願いしたい」と早めに伝えてください。



在宅の負担を軽くするうえで、介護保険では頼めない部分を保険外サービスで埋める方法もあります。夜間の付き添いや、家族が休むための見守りなど、柔軟に頼めるサービスを一つ知っておくと、いざというときの選択肢が広がります。
施設で看取る|メリットとデメリット
施設のメリット
- 介護と見守りのプロが24時間そばにいる
- 家族は「介護者」ではなく「家族」に戻れる
- 急変時の対応手順が決まっていて安心感がある
- 家族が倒れずに、最後まで付き添える
施設のデメリット
- 費用がかかる(在宅より高くなることが多い)
- 面会に制限がある場合がある
- 「家で看てあげられなかった」という気持ちが残ることがある
- すべての施設が看取りに対応しているわけではない



「看取りができる施設」の見分け方
入居前に、必ず次の点を確認してください。「看取りまで対応してもらえますか」と直接聞くのがいちばん確実です。
- 看取り期まで居続けられるか(途中で退去を求められないか)
- 提携している医療機関・訪問診療の体制
- 夜間の看護・医療対応はどうなっているか
- 過去に施設内で看取った実績があるか
- 急変時、どこまで対応し、どの段階で救急搬送するか
「看取り介護加算」という仕組みがあり、これに対応している施設は看取りの体制を整えていると判断する一つの目安になります。ただし、名称や対応範囲は施設ごとに違うので、必ず言葉で確認してください。
【現場のリアル】多くの家族は「途中で決断が変わる」
ここが、他の記事があまり書かない、いちばん大事なところです。「在宅か施設か」は、一度決めたら終わりではありません。
私が現場で見てきた中で最も多いのは、「在宅で始めたけれど、途中で施設や病院に切り替わる」パターンです。これは失敗でも、あきらめでもありません。
大切なのは、この切り替えを「負け」だと思わないことです。家族が倒れてしまえば、本人の穏やかな時間も守れません。切り替えられる余地を最初から残しておくことこそ、賢い備えです。



だからこそ「ハイブリッド」で考える
在宅と施設は、二者択一ではありません。次のような組み合わせが現実的です。
- 普段は在宅、家族が休むときだけショートステイを使う
- 在宅で過ごし、最期の数日だけ病院・施設に移る
- 施設に入居しつつ、外泊で自宅に帰る日を作る
家族が休息をとるためのショートステイや、いざというときの相談先を先に確保しておくと、「もう限界」の一歩手前で踏みとどまれます。
決断が止まる「2つの原因」と、家族での決め方
「在宅か施設か」で家族が動けなくなるとき、原因はほぼ2つに絞られます。
原因1|本人の希望がわからない
看取り期に入ってから本人の意思を確認するのは、多くの場合すでに難しい状態です。だからこそ、元気なうちに「どこで、どう過ごしたいか」を聞いておくことが何より効きます。厚生労働省も「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセス」として、本人・家族・医療者が事前に話し合っておくこと(いわゆる人生会議)をすすめています。
原因2|きょうだい間で意見が割れる
「家で看たい姉」と「施設に頼りたい弟」——現場で本当によく見る対立です。多くの場合、対立の裏にあるのは「誰がどれだけ介護を担うか」の不公平感です。感情論になる前に、次の順番で整理してください。
わかる範囲で、本人が何を望むかを起点にする。
「できる」ではなく「実際に何曜日の何時に動けるか」で話す。
在宅・施設それぞれの費用感を、感情抜きで数字で並べる。
24時間対応の医療が用意できるかで、在宅の可否が決まる。
「まず在宅、無理なら施設」と、変更の余地込みで決める。
現場からの一言
決めるのは「家か施設か」ではなく、「本人と家族にとっての最善は何か」です。手段が目的にならないよう、迷ったらこの問いに戻ってください。
看取り期に、家族がやっておくとよいこと
- 会わせたい人がいれば、早めに会える段取りをする
- 本人の好きな音楽・写真など、心地よい環境を整える
- 延命処置や救急搬送をどうするか、家族と医師で共有しておく
- 葬儀や連絡先など、その後の段取りを少しだけ考えておく
特に、「呼吸が止まったとき、救急車を呼ぶのか、かかりつけ医に連絡するのか」は、事前に決めておかないと、そのとき家族が最も動揺します。在宅で看取ると決めているなら、慌てて119番せず、まず訪問診療医や訪問看護に連絡する——この約束事を家族全員で共有しておいてください。
また、看取りの後には葬儀や各種手続きが待っています。気持ちの余裕がないときに慌てて決めると、費用面で後悔しがちです。事前に葬儀の情報だけでも知っておくと、いざというとき落ち着いて動けます。
看取りの後|「あれでよかったのか」との向き合い方
看取りを終えたご家族の多くが、「あの選択で本当によかったのか」という気持ちを抱えます。これはごく自然な感情で、大切な人を思っていた証です。
在宅を選んでも施設を選んでも、後から「別の道もあったのでは」と考えてしまうもの。ですが、その時点で本人と家族のために悩み抜いて出した答えに、間違いはありません。悲しみが長く続いてつらいときは、一人で抱え込まず、地域包括支援センターや医療者、同じ経験をした人につながってください。



よくある質問
- 在宅看取りは、一人暮らしの親でも可能ですか?
- 条件が整えば可能なケースもありますが、ハードルは高くなります。24時間対応の訪問診療・訪問看護に加え、ヘルパーの頻回な訪問や見守りの体制が必要です。まずはケアマネジャーに現実的に可能か相談してください。
- 途中で在宅から施設に変えるのは、本人に申し訳ない気がします。
- 家族が倒れれば、本人の穏やかな時間も守れません。切り替えは「あきらめ」ではなく、本人を守るための現実的な判断です。多くのご家族が通る道です。
- 費用は在宅と施設でどれくらい違いますか?
- 一般に施設のほうが月額の負担は大きくなる傾向ですが、在宅も医療・介護サービスを多く使えば費用は上がります。個別差が大きいため、ケアマネジャーに両方の見積もりを出してもらうのが確実です。
最後に
「在宅か施設か」は、正解のない問いです。ですが、本人の希望を起点に、切り替えの余地を残して決める——この順番さえ守れば、どちらを選んでも後悔は最小限にできます。一人で抱えず、ケアマネジャーや医療者を頼りながら、本人と家族にとっての最善を選んでください。
あわせて読みたい
- 在宅介護の限界サイン|今すぐ相談すべき3つと、施設を考える目安
「在宅を続けるか、施設か」で迷い始めた方は、まずこちらで限界のサインを確認してください。 - 介護のレスパイトケア|「休む罪悪感」を手放す方法と使い方
看取り期こそ、家族が倒れない仕組みが要ります。休むための具体策はこちら。 - 親の終活で先にやるべき7つ|認知症で”できなくなる”前に
本人の希望を元気なうちに聞いておくために。人生会議の第一歩に。
参考にした情報(公的機関)
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。最新の制度・加算はお住まいの自治体やケアマネジャーにご確認ください。









