「病院に行こう」と言うたびに、親が渋い顔をする。何度言っても動かない。
それ、頑固だからでも、わがままだからでもありません。ちゃんと理由があります。
リハウルフ先に、この記事の結論を言います。
- 「行きたくない」の裏には、体の具体的な理由が隠れていることが多い
- 逆効果になる声かけと、実際に効く声かけの違い
- どうしても動かないなら、医療を家に呼ぶ方法がある
- 迷わず受診・救急を呼ぶべきサインと、無理やり連れて行った“後”に起きること
「気持ちに寄り添いましょう」——どの記事にも書いてあります。もちろん大事です。でも私は、体の専門家として「そもそも、なぜ体が病院を拒むのか」から話します。ここを外すと、どんな声かけも空回りします。
「行きたくない」の裏にある、体の理由
訪問の現場で、「病院を嫌がる」と聞いてよく話を聞くと、心の問題ではなく、体の問題だったということが本当に多い。まず、ここを疑ってください。
- 歩くと痛い・しんどい
膝や腰が痛くて、待合室で長く座るのも、移動もつらい。でも「痛い」とは言わない - トイレが心配
頻尿や失禁の不安。慣れない場所のトイレが怖くて、外出そのものを避ける - 耳が聞こえにくい
医師の説明が聞き取れず、聞き返すのが恥ずかしい。だから会話の場を避ける - 前回、嫌な思いをした
長い待ち時間、冷たい対応、痛い検査。その記憶が「もう行きたくない」になる
これらは、声かけを工夫しても解決しません。原因が「気持ち」ではなく「体」だからです。まず「どこか痛くない?」「トイレ、心配じゃない?」と、具体的に聞いてみてください。理由が分かれば、対策が打てます。



やってはいけない声かけ
気持ちが原因の場合もあります。「衰えを認めたくない」「病名を知るのが怖い」。このとき、次の声かけは、かえって拒否を強めます。
逆効果になりやすい言葉
×「なんで行かないの、心配してるのに」(責める)
×「放っておいたら、大変なことになるよ」(脅す)
×「もう歳なんだから、行かなきゃダメでしょ」(正論で追い込む)
正論・強制・脅しは、プライドを傷つけて心を閉ざさせます。「子どもに指図された」と感じると、意地でも動かなくなります。
効くのは「主語を自分にする」声かけ
現場で効果が高いのは、主語を「親」ではなく「自分(家族)」にする言い方です。「あなたのため」ではなく、「私が安心したいから」に変えるだけで、ハードルがぐっと下がります。
こう言い換えてみてください
「私が心配で眠れないから、一回だけ先生に診てもらえない?」
「私も一緒に行くから、ついでに診てもらおうよ」
「先生に“大丈夫”って言ってもらえたら、私が安心するんだ」
「あなたのため」だと押しつけになる。「私のため」だと、親は動きやすい。不思議ですが、これは本当によく効きます。
もうひとつ。本人が信頼している人から言ってもらうのも有効です。子の言うことは聞かなくても、かかりつけ医、昔からの友人、孫の一言なら動く——そういうことは、しょっちゅうあります。



それでも動かないなら「医療を家に呼ぶ」
ここが、他ではあまり具体的に書かれていない部分です。本人が病院に行けないなら、医療のほうに来てもらう手があります。
| 往診 | 急な体調不良のときに、その都度、医師に来てもらう。「熱が下がらない」「動けない」といった突発時に |
|---|---|
| 訪問診療 | 通院が難しい人に、計画的に定期訪問してもらう。月2回など、決まったペースで診てもらえる |
| オンライン診療 | スマホやパソコンで、自宅から医師の診察を受ける。対応している医療機関は増えつつある |
知っておきたいこと
往診も訪問診療も、医療保険が使えます(後期高齢者医療・介護保険の対象年齢の方を含む)。「自費で高額なのでは」と身構える方が多いですが、そうではありません。まずは、今かかっている「かかりつけ医」に「往診はできますか」と聞いてみてください。できない場合も、在宅医療をしている近隣のクリニックを紹介してもらえることがあります。
顔なじみの医師が家に来てくれるなら、本人の心理的な負担は激減します。「病院に行く」というハードルそのものを、なくしてしまう——これが、いちばん確実な解決策になることも多いです。
※費用は保険の負担割合や訪問回数で変わります。目安を知りたい場合は、医療機関や地域包括支援センターに確認してください。
通院そのものの負担を減らす
「病院には行けるけど、移動と付き添いが大変」というケースも多い。ここは、環境で解決できます。
- 移動がつらいなら、介護タクシー
車いすのまま乗れて、乗り降りの介助もしてもらえる。要介護なら介助部分に保険が使える場合も - 待ち時間対策は、予約と時間帯の工夫
予約制の医院を選ぶ、混まない時間を狙う。それだけで本人の負担が変わる - 家族が付き添えないなら、付き添いを頼む
仕事を休み続けるのは限界がある。保険外の付き添いサービスという選択肢もある
特に「毎回の通院に付き添うために、有給を使い果たしている」という方。それは長続きしません。家族が倒れたら、介護そのものが止まります。通院の付き添いを外部に頼る、保険外の生活支援サービスを組み合わせる——こうした手段を知っておくだけで、ずいぶん楽になります。
認知症で拒否する場合
認知症がある場合、拒否の理由が「なぜ病院に行くのか、理解できない・忘れてしまう」ことにあります。このときは、説明で納得させようとしても、うまくいきません。
認知症の受診拒否への向き合い方
・理屈で説得しない。「近くまで来たから寄ろう」など、自然な流れで誘う
・「健康診断」「役所の手続き」など、本人が受け入れやすい理由に置き換える
・その日の機嫌に合わせる。無理な日は、日を改める
・本人が信頼している人(かかりつけ医・家族の中の“この人なら”)に頼む
それでも難しければ、前述の訪問診療や、認知症の相談ができる地域包括支援センターに相談してください。認知症は、早めに専門医につながるほど、その後の選択肢が広がります。
これは迷わず受診・救急を呼ぶサイン
「様子を見よう」が命取りになることがあります。本人が嫌がっても、次のサインがあれば、受診をためらわないでください。
- ろれつが回らない・顔や手足の片側が動かない(脳の病気の疑い)
- 強い胸の痛み・急な息苦しさ
- 意識がもうろうとする・呼びかけへの反応が鈍い
- 急に食べられなくなった・水分もとれない
- 転んで頭を打った後の、様子の変化
こうした症状は、本人の「大丈夫」より、体のサインを優先してください。迷ったら、救急相談窓口「#7119」に電話して判断を仰ぐ方法もあります。
無理やり連れて行った“後”に起きること
緊急時は別です。でも、緊急でないのに力ずくで病院に連れて行くと、あとで“しっぺ返し”が来ます。これは現場でよく見る光景です。
現場で見てきた、その後
・次からの拒否が、もっと強くなる——「また騙された」と警戒される
・家族への信頼が揺らぐ——「この子は私の言うことを聞かない」
・本人が心を閉ざし、体調の変化を隠すようになる
一度の受診より、長い関係のほうが大事です。だから、遠回りに見えても「本人が納得して行く」形を、できるだけ探ってほしいのです。



よくある質問
- どうしても行かないとき、家族はどこに相談すればいいですか?
- 地域包括支援センターです。「親が受診を嫌がって困っている」という相談も、ちゃんと受けてくれます。訪問診療をしている医療機関の紹介や、介護サービスの調整まで、まとめて相談できます。
- かかりつけ医がいません。どうすれば?
- まずは近所の内科を一つ決めるところから。「かかりつけ医」がいると、体調の変化に早く気づけて、いざという時の紹介もスムーズです。本人が「近いから」「先生が優しいから」と思える医院を選ぶのがコツです。
- 健康診断も嫌がります。放っておいていい?
- できれば年1回は受けてほしいところです。自覚症状のない病気(高血圧・糖尿病など)は、検査でしか見つかりません。自治体の健診なら費用の負担が軽いことが多いので、「無料(または安く)受けられるよ」と誘ってみてください。
- 遠方に住んでいて、付き添えません
- オンライン診療や、保険外の通院付き添いサービスを活用できます。また、地域包括支援センターやケアマネに相談すれば、地元で支える体制を一緒に考えてくれます。一人で抱え込まないでください。
まとめ|「行きたくない」の理由に、対応する
- 「行きたくない」の裏に、痛み・トイレ・難聴・嫌な記憶が隠れていないか確認する
- 正論・強制・脅しは逆効果。主語を「私」にした声かけが効く
- どうしても動かないなら、往診・訪問診療・オンライン診療で医療を家に呼ぶ
- 移動や付き添いの負担は、介護タクシー・付き添いサービスで減らせる
- 危険なサインがあれば、本人が嫌がっても受診・救急を優先
- 緊急でないなら、無理やりは禁物。長い信頼関係のほうが大事
親が病院を嫌がると、家族はつい「なんで分かってくれないの」と焦ります。でも、「行きたくない」には、必ず本人なりの理由があります。その理由に一つずつ対応していけば、道は開けます。
そして——家族だけで抱え込まないでください。かかりつけ医、地域包括支援センター、ケアマネ。頼れる相手は、思っているより多くいます。



あわせて読みたい
- 親の通院に付き添えない|有給を使い切る前に知るべき制度と方法
付き添いが限界に近い方は、まずこちらへ。 - 介護タクシーと福祉タクシーの違い|「介助は保険・運賃は自費」の実態
通院の移動がつらいなら、この手段を知っておくと安心です。 - 地域包括支援センターとは|無料で使える介護の「最初の窓口」
受診拒否の相談も、訪問診療の紹介も、まずはここへ。
参考にした情報(公的機関)
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。往診・訪問診療の費用や「#7119」の対応地域は、地域・医療機関によって異なります。個別の状況は、かかりつけ医や地域包括支援センターにご確認ください。









