「認知症です」と言われた帰り道。
何から手をつければいいのか、分からないまま、ここに辿り着いたのだと思います。
最初に、正直なことを書きます。30日で、介護体制は完成しません。要介護認定の結果すら、まだ出ていない頃です。
それでも「最初の30日」に意味がある理由は、はっきりあります。この時期にしかできないことが、2つあるからです。
リハウルフ- 判断能力があるうちの、お金と法律の準備 任意後見も家族信託も、本人に判断能力があるうちしか結べません。進行してからでは、選択肢が消えます。
- 新しい薬の検討(対象になるのは早期だけ) レカネマブ・ドナネマブは、軽度の段階でしか使えません。進行すると、対象から外れます。
逆に言えば、介護サービスは急いでも1ヶ月半は動きません。そこで焦る必要はありません。
診断の前段階(受診すべきか迷っている)の方は、この記事はまだ早いかもしれません。まず主治医に相談してください。
Day1〜3|「認知症」だけでは、何も分からない
診断書に「認知症」とだけ書かれていたら、もう一度、病院に聞いてください。認知症は、病名ではなく状態の名前です。原因の病気によって、薬も、対応も、進み方も、まったく違います。
| タイプ | 家族が知っておくこと |
|---|---|
| アルツハイマー型 | 最も多い。新しい薬(レカネマブ等)の対象になりうるのは、このタイプの早期のみ。 |
| レビー小体型 | 薬に過敏。特に抗精神病薬で重い副作用が出ることがあります。 幻視(いない人が見える)、調子の波、パーキンソン症状。 「幻視を訴えたから精神科で薬を」が、命に関わることがあるタイプです。 |
| 血管性 | 脳梗塞などが原因。再発予防がそのまま進行予防になります。 まだら(できる時とできない時の差が大きい)。 |
| 前頭側頭型 | 物忘れより先に、性格や行動が変わる。万引き等で発覚することも。 叱っても止まりません。症状です。 |



医師に聞く3つのこと
- タイプは何ですか?(上の4つのどれか)
- 進行の程度は? 軽度・中等度・重度のどのあたりか
「MMSEは何点でしたか」と聞くと、具体的な答えが返ってきます - 治せる原因は、除外されていますか?
正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫・甲状腺機能低下・ビタミン欠乏など、治療で改善しうるものが隠れていることがあります
新しい薬について
レカネマブ(レケンビ)・ドナネマブ(ケサンラ)は、アルツハイマー病の進行を遅らせることを狙う薬です。従来の薬とは仕組みが違います。
ただし、誰でも使えるわけではありません。対象はアルツハイマー病によるMCI(軽度認知障害)または軽度の認知症で、アミロイドβの蓄積がPET等で確認できることが条件。MMSEにも基準があります(おおむねレカネマブ22〜30点、ドナネマブ20〜28点)。MRIでの経過確認も必要で、扱える医療機関が限られます。
「治す薬」ではありません。副作用(脳浮腫・微小出血など)もあり、費用も高額です。それでも、検討できるのは早期のうちだけなので、「うちの親は対象になりますか」と聞くこと自体には意味があります。聞かないまま進行して、対象から外れるのが一番もったいない。
Day3〜7|要介護認定を、とにかく早く出す
ここが、この30日で最も「早さ」が効く手続きです。理由は単純で、時間がかかるからです。
要介護認定は申請から原則30日以内に結果を出すことになっています。しかし全国平均は約40日という調査もあり、地域によってはさらに延びます。
つまり、Day5に申請しても、結果が届くのはDay45前後。「30日で介護体制を作る」記事を読んで焦る必要はありません。物理的に無理だからです。
窓口は市区町村の介護保険担当課、または地域包括支援センター。どこにあるか分からなければ、「(市区町村名) 地域包括支援センター」で検索すれば出ます。電話1本で、その日のうちに動き出せます。
認定調査で、家族が必ずやること
認知症の認定調査には、決定的な落とし穴があります。本人が、調査員の前だけ「しっかり」してしまう。
「お名前は?」「今日は何日ですか?」——プライドで、普段できないことを気丈に答えてしまう。結果、実態より軽い介護度が出ます。認知症の家族が最も損をするポイントです。
調査に立ち会い、本人の前で言いにくいことは、メモにして調査員に渡してください。
書くのは「頻度」と「具体例」です。
- ❌「よく物忘れをする」
- ⭕️「週3回、鍋を火にかけたまま忘れる。今月2回焦がした」
- ⭕️「夜中に2〜3回起きて外に出ようとする。先月、警察に保護された」
いい格好をしたくなるのは、本人も家族も同じです。でもここは、一番困っている日を基準に伝えてください。



Day7〜20|「判断能力があるうち」のラストチャンス
認定結果を待っている間が、この30日の本番です。介護サービスは待つしかありませんが、お金と法律の準備は、待つと選択肢が減ります。



認知症が進行して判断能力を失うと、こうなります。
| 口座が凍結されうる | 金融機関が本人の意思確認をできないと判断した場合、家族でも引き出せなくなります。親の介護費用を親のお金で払えない、という事態。 |
|---|---|
| 実家が売れない | 施設入居費を捻出するために自宅を売る——本人に意思能力がないと、できません。成年後見人を立て、家庭裁判所の許可が要ります(居住用不動産の場合)。 |
| 任意後見・家族信託が結べない | これらは契約です。契約は、判断能力がないと結べません。診断直後の今が、実質的な締め切りです。 |
診断がついた=即座に契約無効、ではありません。軽度なら、まだ間に合うことが多い。ただし判断は専門家(司法書士・弁護士)と医師の領域です。「まだ大丈夫」と思っているうちに動いてください。
最低限、今月中にやることはこれだけです。
- 親の資産を把握する 口座がどこに何個あるか、年金額、保険、不動産、そして借金。本人に聞けるうちに聞く。
- 通帳・印鑑・保険証券の場所を確認する 「どこにあるか分からない」が、後で一番効きます。
- 専門家に相談だけしておく 任意後見・家族信託・代理人カード。やるかどうかは後で決めていい。選択肢が生きているうちに聞くことに意味があります。
ここで動けるかどうかが、5年後の家族の消耗を決めます。「まだそんな段階じゃない」と思う今が、いちばん動ける時期です。
とはいえ、任意後見と家族信託のどちらが合うかは、資産の中身と家族構成で変わります。「実家をどうするか」まで含めて考えると、素人判断は危険です。まず無料相談で、自分の家に何が使えるのかを聞くだけでも違います。
運転免許は、別枠で急ぐ
認知症と診断されると、道路交通法上、運転免許は取消しまたは停止の対象になります。これは家族の判断ではなく、制度の話です。
そして事故を起こしてからでは、賠償が家族に及びます。「そのうち説得しよう」で先延ばしにできる問題ではありません。
Day20〜30|ケアマネを決め、家族で話す
認定結果はまだ出ていませんが、ケアマネジャー選びは先に動けます。
認知症の介護では、ケアマネの当たり外れが、その後の数年を左右します。地域包括支援センターで居宅介護支援事業所のリストをもらい、電話して「認知症のケアプランを多く担当している方はいますか」と聞いてください。合わなければ、後から変更できます。最初の1人と、一生付き合う必要はありません。
認定を待たずにサービスを使いたいとき
「40日も待てない、今すぐデイサービスが要る」という状況はあります。その場合、暫定ケアプランという方法があります。見込みの介護度でケアマネにプランを作ってもらい、認定前からサービスを使う。認定の効力は申請日にさかのぼるので、後から保険給付が適用されます。
- 結果が「非該当(自立)」だと、使った分は全額自己負担になります。
- 想定より軽い介護度が出た場合、限度額を超えた分は全額自己負担。
認知症は身体が元気なことが多く、思ったより軽い介護度が出やすいのが実情です。使う前に、ケアマネと「最悪いくらになるか」を必ず確認してください。
きょうだいと話す
この時期に一度、話しておいてください。もめる原因は、だいたい決まっています。近くに住む人が全部やり、遠くの人が後から口を出す。
決めるのは「誰が何をやるか」ではなく「お金をどこから出すか」と「誰が決定権を持つか」です。役割分担は状況で変わりますが、この2つが曖昧なままだと、必ず揉めます。
やってはいけない5つのこと
| 間違いを訂正する | 「違うでしょ、昨日も言ったでしょ」 本人には、忘れた自覚がありません。訂正は「責められた」という感情だけを残します。事実は消えても、嫌な気持ちは残ります。 |
|---|---|
| 仕事を辞める | 介護離職は、いちばん後戻りできない選択です。収入が消え、社会との接点も消え、逃げ場がなくなる。 まず介護休業制度(通算93日)を使ってください。 |
| 施設を即決する | 診断直後の混乱の中で決めた入居は、ほぼ後悔します。今日決める必要は、ありません。 |
| 一人で抱える | 認知症介護は年単位です。抱えた人から壊れます。 |
| 本人に隠れて全部決める | 軽度のうちは、本人に決める力が残っています。「どこで、どう暮らしたいか」を聞けるのは今だけです。 |



30日後、まだ何も終わっていません
30日目の時点で、おそらくこうなっています。認定結果はまだ届いていない。サービスも始まっていない。親の症状も、特に良くなっていない。
それで、正常です。失敗ではありません。
この30日でやったのは、時間制限があるものを、締め切り前に片付けたことだけです。それで十分です。認定が出れば、ケアマネが入り、そこからは一人で背負わなくてよくなります。
そして、ここは正直に書きます。「適切なケアで5〜10年、本人らしく暮らせる」と断言することは、私にはできません。進み方には個人差が大きく、タイプによっても違います。
ただ、12年間見てきて確実に言えることが一つあります。家族が余裕を失うと、本人の状態も崩れます。穏やかな家族のもとにいる方は、穏やかです。だから、家族が休むことは、本人のためのケアでもあります。



よくある質問
- 本人に診断を伝えるべきですか?
- 正解はありません。ただ、軽度のうちは本人も薄々気づいていることが多いです。隠されるほうが不安だ、という方もいます。医師に「本人にどう伝えるのがよいか」を相談してください。
- 障害者控除は使えますか?
- 要介護認定を受けただけでは対象になりません。市町村長等の認定が別途必要で、認定基準日は12月31日です。診断直後にやる手続きではなく、確定申告期の話です。
- 診断されると介護保険料は上がりますか?
- 上がりません。介護保険料は所得等で決まります。診断そのものは、保険料には関係ありません。
- 親が診断を受け入れません
- よくあることです。説得より、「困っていること」から入るほうが動きます。「認知症だから」ではなく「最近しんどそうだから、助けてもらおう」。
まとめ
- タイプを確認する(Day1〜3) 「認知症」だけでは何も分かりません。レビー小体型なら薬に要注意。
- 要介護認定を申請する(Day3〜7) 結果まで40日前後。早さがそのまま効く、唯一の手続きです。
- 認定調査には立ち会い、困りごとを紙で渡す 本人は調査員の前でしっかりしてしまいます。
- お金と法律を、判断能力があるうちに(Day7〜20) ここが本番。待つと選択肢が消えます。
- 早期なら、新薬の対象か聞く 進行すると、対象から外れます。
- 30日で完成しなくていい 認定はまだ出ていません。それが普通です。
今日できることは、一つだけで十分です。地域包括支援センターに電話する。そこから先は、専門職が一緒に考えてくれます。
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後見人を立てると実際どうなるのか。使う前に知っておくべきことです。
参考にした情報(公的機関)
診断・治療・薬に関する判断は必ず主治医に、法的手続きは司法書士・弁護士等の専門家に、介護サービスはケアマネジャー・地域包括支援センターにご相談ください。
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。









