「親が家の中でつまずくようになった」「退院までに手すりを付けたい」——介護リフォームを考え始めたご家族が、まず知りたいのは費用と介護保険で戻るお金のはずです。
結論から言うと、介護保険を使えば手すりや段差解消の工事は20万円まで、原則9割が戻ります。ただし、これには「工事の前に申請する」という絶対条件があり、ここを飛ばして全額自費になるご家族を、私は何度も見てきました。
この記事では、理学療法士・ケアマネジャーとして在宅のお宅を回ってきた私が、費用相場と制度に加えて、パンフレットには載らない「工事のその後」——せっかく付けた手すりが合わなくなる、退院前の駆け込み工事で作り直しになる、といった現場のリアルまでお伝えします。
介護リフォームで、最初に押さえる3つの結論
この記事の要点
- 手すり・段差解消など6種類の工事は、介護保険で20万円まで・原則9割が戻る
- 工事の「前」に申請しないと1円も戻らない。ここが最大の落とし穴
- 身体は変化する。いきなり固定せず「置くだけ」で試すのが失敗しないコツ
介護リフォームは「良い業者に安く頼む」ことより、制度の順番を間違えないことと身体の変化を見越すことで結果が大きく変わります。順番に見ていきましょう。
リハウルフ
リハウルフ介護保険の住宅改修|20万円まで・原則9割が戻る仕組み
要介護・要支援の認定を受けている方が自宅を改修する場合、介護保険の「住宅改修費」が使えます。これは介護リフォームの費用を考えるうえで、いちばん大きな軸になる制度です。
対象になるのは、この6種類の工事
厚生労働省が定める住宅改修の対象は、次の6つに限られます。デザイン目的のリフォームや、後述する「置くだけ」の福祉用具は対象外です。
- 手すりの取付け
- 段差の解消(スロープの設置など)
- 滑り防止・移動を円滑にするための床材の変更
- 引き戸などへの扉の取替え
- 洋式便器などへの便器の取替え
- 上記に付帯して必要となる工事(下地補強など)
上限20万円・戻るのは原則9割(最大18万円)
支給限度基準額は要支援・要介護の区分にかかわらず一律20万円。この20万円のうち、所得に応じた自己負担分(1〜3割)を除いた額が戻ります。
| 自己負担割合 | 戻る割合 | 戻る上限額 |
|---|---|---|
| 1割の方 | 9割 | 18万円 |
| 2割の方 | 8割 | 16万円 |
| 3割の方 | 7割 | 14万円 |
支払いは、いったん全額を業者に払い、あとから保険分が戻ってくる「償還払い」が原則です(自治体によっては最初から自己負担分だけ払う「受領委任払い」も使えます)。20万円は一度に使い切る必要はなく、数回に分けて使えます。
「3段階アップ」か「転居」で、もう一度20万円が使える
20万円は原則「ひとり生涯で1回」ですが、次の場合はリセットされ、再び20万円まで使えます。
枠がリセットされる条件
- 要介護状態区分が3段階以上重くなったとき(例:要支援2 → 要介護3)
- 転居した(引っ越し先の家で改めて使える)
【最重要】工事の「前」に申請しないと、1円も戻らない
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。介護保険の住宅改修は、工事に着工する前にケアマネジャーが理由書を作り、市区町村へ事前申請して承認を得る——この順番が絶対条件です。
やりがちな失敗
「早く付けてあげたい」と先に業者へ発注して工事を済ませてしまうと、あとから申請しても対象外。20万円まるごと自費になります。
私が担当したご家族でも、退院日が迫って焦り、ケアマネに相談する前に近所の工務店へ手すり工事を頼んでしまった方がいました。工事はきれいでしたが、事前申請をしていなかったため保険は使えず、全額自己負担に。「知っていれば9割戻ったのに」と悔やまれていました。
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場所別の費用相場|どこをいくらで直せる?
費用は住宅の構造や下地の状態で大きく変わるため、以下は複数の民間情報を照合した目安です。あくまで「相見積もりの判断材料」として見てください。
| 場所・内容 | 費用の目安 | ひとこと |
|---|---|---|
| 手すり設置(廊下・階段) | 2万〜8万円 | まず玄関・トイレ・浴室から |
| 段差解消(スロープ等) | 2万〜15万円 | 屋外の玄関〜道路も対象 |
| トイレ改修(洋式化・手すり) | 5万〜20万円 | 転倒・失禁が起きやすい場所 |
| 浴室改修(床の滑り止め・手すり) | 5万〜20万円 | 事故がもっとも多い場所 |
| 扉の交換(引き戸化) | 5万〜15万円 | 車いす・歩行器が通りやすい |
現場で事故がいちばん多いのは浴室と、夜間のトイレです。予算が限られるなら、まずこの2か所の手すりと滑り止めから手を付けると、費用対効果が高いと感じています。
【勝ち筋】固定工事の前に、「置くだけ」で試すと失敗しない
介護リフォームで後悔がいちばん少ないのは、いきなり壁や床に固定せず、まず「置くだけ・突っ張り式」の福祉用具で試してから決めるやり方です。
据え置き型の手すり(床置きタイプ)や突っ張り式の縦手すりは、工事なしで設置でき、介護保険の福祉用具レンタルの対象になるものもあります。数週間使ってみて「本当にこの位置でいいか」を確かめてから、必要なところだけ固定工事にする。この順番なら、付けたのに使わない手すり=ムダな出費を避けられます。
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現場で本当に多い失敗|退院前の「駆け込み工事」
もうひとつ、パンフレットに載らない現実があります。退院日から逆算した駆け込み工事は、作り直しになりやすいということです。
入院中の親の状態を見て「たぶんこのくらい動けるだろう」と手すりの位置を決めても、実際に自宅へ帰ると、想定と身体の動きがズレることがよくあります。ベッドの位置、利き手、立ち上がり方——これらは本人が実際に自宅で動いてみないと分からないものです。
駆け込み工事が失敗する理由
- 入院中の身体状態と、退院後の動きが違う
- 手すりの高さ・向きが本人の立ち上がりに合わない
- 結局もう一度工事 → 20万円の枠を早く使い切る
私が見てきたケースでは、退院直後は前述の「置くだけ」で数週間しのぎ、理学療法士や福祉用具専門相談員が自宅での動きを見てから固定工事の位置を決めるご家族が、いちばんやり直しが少なかったです。急がば回れ、が効く場面です。
リフォームしても、身体は変わる|手すりの「位置ズレ」問題
介護リフォームは「一度やれば終わり」ではありません。親の身体は、良くも悪くも変わっていくからです。
リハビリで歩けるようになって手すりが不要になる方もいれば、逆に足腰が弱って「今の高さでは掴めない」「もう一本必要」となる方もいます。せっかく固定した手すりが、半年後には身体に合わなくなる——これは珍しいことではありません。
だからこそ、最初にすべてを完璧に固定しようとせず、変化に合わせて足していく前提で考えるのが現実的です。20万円の枠を一度に使い切らず、少し残しておくと、身体の変化に対応しやすくなります。
自己負担を抑える3つの工夫
① 自治体の助成金を上乗せで使う
介護保険の20万円とは別に、市区町村独自のバリアフリー助成金を用意している自治体があります。上乗せで使えることもあるので、ケアマネか地域包括支援センターに「うちの自治体に住宅改修の上乗せ助成はありますか」と必ず確認しましょう。
② 複数業者で相見積もりを取る
同じ手すり工事でも、業者によって数万円変わることがあります。最低でも2〜3社から見積もりを取り、金額だけでなく「なぜその位置に付けるのか」の説明を比べてください。
③ 福祉用具レンタルと組み合わせる
前述のとおり、固定工事にする前にレンタルの福祉用具で試すと、ムダな工事を減らせます。工事(買い切り)とレンタル(月額)をうまく使い分けるのが、長い目で見ていちばん安上がりです。
失敗しない業者選び|5つのチェックポイント
- 介護保険の住宅改修の実績があり、理由書の作成に慣れている
- ケアマネ・福祉用具相談員と連携して現地を見てくれる
- 見積りの内訳が明確(「一式」でごまかさない)
- 本人の動きを見て手すりの位置を提案してくれる
- 工事後のメンテ・追加相談に応じてくれる
いちばん大事なのは、本人の身体を見て提案してくれるかです。「標準的にはこの位置」と機械的に付ける業者より、立ち上がりや歩き方を見て「ここに縦手すりを」と言える業者を選んでください。
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リフォームで在宅が続く人・続かない人
介護リフォームは在宅生活を支える強力な手段ですが、万能ではありません。手すりや段差解消で解決できるのは、あくまで「本人が自分で動ける」段階まで。
認知症が進んで危険の判断ができなくなったり、常時の見守り・介助が必要になったりすると、いくら家を直しても在宅が難しくなります。リフォームに大金を投じる前に、今どの段階にいるのかを冷静に見ることも大切です。在宅を頑張り続ける家族の負担が限界に近いなら、施設という選択肢も並行して考えておくと安心です。
「そろそろ在宅は厳しいかも」と感じ始めたら、情報を集めるだけでも心の余裕が変わります。施設探しは、資料請求や相談を無料でまとめて行えるサービスを使うと効率的です。
介護リフォームに関するよくある質問
- 賃貸住宅でも介護保険の住宅改修は使えますか?
- 使えます。ただし、原則として大家さんの承諾が必要です。退去時に原状回復を求められることもあるため、事前に取り決めておきましょう。
- 要介護認定を受けていなくても使えますか?
- 住宅改修費は要支援・要介護の認定が前提です。まだ認定を受けていない場合は、先に要介護認定の申請から始めてください。
- 20万円を超えた分はどうなりますか?
- 超えた分は全額自己負担です。自治体の上乗せ助成が使えないかを確認し、優先順位の高い場所から工事するのが現実的です。
まとめ|介護リフォームは「順番」と「先読み」で決まる
この記事のポイント
- 手すり・段差解消など6種類は、介護保険で20万円まで・原則9割戻る
- 工事の前に申請。順番を間違えると全額自費になる
- いきなり固定せず「置くだけ」で試す。退院前の駆け込み工事は作り直しやすい
- 身体は変わる。枠を使い切らず、変化に合わせて足していく
介護リフォームは、費用相場を調べることより、制度の順番を守り、身体の変化を先読みすることで結果が変わります。まずはケアマネジャーに相談し、あわてず「置いて試す→合う位置に固定」の二段構えで進めてください。
参考にした情報(公的機関)
※本記事の制度に関する内容は、2026年7月時点の情報にもとづいています。実際の申請前に、お住まいの市区町村・ケアマネジャーに最新の取り扱いをご確認ください。
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